夏の日の思い出
(03)
「横島さん。どうしてここに来たんですか?」
隣に座っていたおキヌが、横島に話しかけてきた。
「雪之丞のやつがさ、除霊の仕事を手伝って欲しいって言ってきたんだ。報酬はそこそこなんだけど、昼間は海で遊べるから、まっいいかなーって思って。おキヌちゃんこそどうして?」
「私は、弓さんと魔理さんに誘われたんです。やっぱり、除霊の仕事を手伝って欲しいって」
「うーん。話はわかったけど、何かアヤシイんだよな。なんで雪之丞やタイガーは、おキヌちゃんたちのことを黙ってたんだろう?」
「あの……ひょっとして、私たちがいると迷惑ですか?」
「いや、全然そんなことないよ。海で男三人じゃむさくるしいから、女のコをナンパしようと思ってたし」
「やっぱり、横島さんですね。毎年、やることは変わらないんですから」
おキヌが幽霊だった頃も含まれているが、横島や美神と一緒に、真夏のビーチやプールに何度もきていた。
「何度やっても成功しないのに、それでもあきらめないのはスゴイです」
「……いいんだ。どうせ、俺なんか……」
「横島さん、元気だしてください。背中にサンオイルを塗ってあげますから」
「へっ!? あ、ありがとう、おキヌちゃん」
「よーーし、行こうか!」
「はい!」
「それっ!」
横島は波打ち際で大きくジャンプすると、ザブンと海に飛び込んだ。「うわー、冷たい」
横島の背後では、おキヌが膝の上まで水の中に入っていた。「思いきって肩まで水の中に入れば、すぐに慣れるよ」
おキヌは数歩前に歩くと、しゃがんで肩まで海の中に入ってみた。
「あ、ほんとです。思ったより冷たくない」
「少し沖まで行ってみようか?」
「ええ!」
「海って楽しいですねー」
「海で遊ぶなんて何年ぶりかなー。東京に来てから、初めてかもしれない。おキヌちゃんは、海で泳いだことある?」
「私は海のない場所で育ちましたから。ただ、川で泳いで遊んだことはありますよ」
「おーい、おキヌちゃーん!」
少し離れた場所から、横島と同様にマットの上で寝そべっている魔理が、おキヌに呼びかけてきた。「一文字さーーん!」
おキヌは浮き輪に片手でつかまりながら、もう片方の手で魔理に手をふった。「二人とも仲がいいねーー」
魔理が「じゃー、またあとでねー」
「あのさ、おキヌちゃん。体も
「は、はい!」
「荷物番、おつかれ」
そこには雪之丞と弓の姿があった。
「楽しんできたか?」
「ああ。魔理さんにさんざん冷やかされたよ」
「じゃあ、交代だな。荷物をしっかり見てろよ」
「おキヌちゃん、のどが乾かない? 何か買ってこようか」
「ええ、お願いします」
「私たち、アナタたちとは一緒にいたくないです」
「なあ、そうツンツンするなよ。ちょっとぐらいつきあってくれよ」
「イヤです。放してください!」
横島はどうしようか迷ったが、少年たちが少女たちを取り囲むのを見て、さすがに見捨てるわけにはいかなくなった。「あのさー。ナンパするなとは言わないけど、嫌がる女の子に無理強いするのは、反則じゃないのか?」
横島が少年たちの背後から、声をかけた。「なんだよ。部外者はすっこんでろ」
少年の一人が、横島に毒づいた。「そうはいってもなー」
少年たち三人の険しい視線が横島に集まる。「余裕こいてんじゃねーぞ、ゴラァ」
不良の一人が横島に向かって一歩近づいたとき、横島は手にしていた小さな珠を投げた。「うわっ!」
あっというまにその少年は、首まで砂に埋まってしまった。「な、何でこんなところに落とし穴が……」
他の二人の手を借りながら、ようやくその少年が砂から
「おい、横島」
「横島さん、何やってんですかノー」
「ちっ、行くぜ」
不良少年たちは、そそくさとその場を去っていった。
「あ、あの、ありがとうございました」
「ありがとうざいます」
「やあ、ボク横島。君たちどこから来たの? 名前は?」
横島は二人にサッと近づくと、すかさず話しかけた。「ちなみに、あっちの小さめなのが雪之丞で、でっかいのがタイガーっていうんだ。おい、こっちにこいよ」
だが雪之丞もタイガーも、こちらに来ようとしない。
「なにやってんだ、二人とも?」
「よ、横島さん、後ろをみてつかぁさい……」
「へっ!?」
「よ・こ・し・ま・さ・ん!」
「は、はいっ!」