「おまえ、将来のこと何か考えているのか?」

 って、高校の担任の先生に聞かれた時に、

「美人の嫁さん手に入れて、退廃的な生活したいと思ってます!」

 と答えたら、

「ちっとも考えとらんじゃないか!」

 と怒られたことがある。

 でもまあ、人の願いというのは案外かなうもので、数年後、俺は見事に美人の嫁さんを手に入れた。
 もっとも今は、退廃的な生活どころか、毎日(いそが)しく働いている。
 それにさしたる不満を感じていないところをみると、俺も少しは変わったのかもしれない。

「今、帰ったよ」

 俺が自宅のドアを開けると、中から嫁さんが俺を迎えに出てきた。

「お帰りなさい、忠夫さん」

「ただいま、おキヌちゃん」





 そ・れ・か・ら

作:湖畔のスナフキン






「お風呂、沸いてますよ」

「じゃあ、先に入ろうかな」

 俺は、おキヌちゃんの言葉に甘えて、先に風呂に入ることにした。
 服を脱いで風呂場に入ると、頭から湯をかぶった。

 今日は、野外で仕事をしたので、かなり汗をかいている。
 湯加減もばっちりだ。
 細かいところまで気配りしてくれて、本当にありがたい。

「ふーっ」

 先に体を洗って汚れをおとすと、湯舟に肩までつかった。
 一人暮らしの時には味わうことができなかった、心身ともにくつろげる時間。
 『結婚は人生の墓場だ!』って力説するヤツもいるけど、俺にとっては墓場どころか極楽のようだった。




「お風呂、あがったよ」

 Tシャツと短パンに着替えた俺は、キッチンにいたおキヌちゃんに声をかけた。

「もう少しで、食事の用意ができますから」

 おキヌちゃんは紺のワンピースの上に、レースのついた白のエプロンを着けていた。
 風呂で疲れを(いや)した俺は、その可愛らしい姿に煩悩が激しく刺激される。

「おキヌちゃん」

 (すき)をみて俺は、おキヌちゃんに背後から抱きついた。


「あっ……」

 おキヌちゃんは(おどろ)いたのか、手に持っていた皿を落としそうになった。

「今度さ、一緒にお風呂に入らない?」

「そんな、困ります。まだ、お料理途中なのに……」

「ウンって言うまで、離さない」

 俺は唇をおキヌちゃんの首筋に近づけると、片手を腰の下に伸ばしていく。
 伸ばした手がおキヌちゃんに触れると、ピクンと体を(ふる)わせた。

「あ、あの、明日でいいなら……」

「約束だよ」

 俺はおキヌちゃんの(ほほ)にキスすると、その場を離れた。
 今までのパターンからすると、たぶんキッチンで頬を真っ赤にしているんじゃないかと思う。




 夕食のおかずは、(たい)の煮付けにほうれん草のおひたし、それに肉じゃがとポテトサラダだった。
 二人用の小さなちゃぶ台の上に、おかずのお皿が所狭しと並んでいる。
 俺は食事には好き嫌いの無い方だけど、それでも好物ばかり(そろ)っているのは嬉しかった。

「いただきまーーす」

 炊きたてのご飯と、豆腐のみそ汁がおいしかった。
 こういう時は、日本人に生まれて本当によかったと思う。
 そしてそれ以上に、おいしい料理を作ってくれる嫁さんがいることが嬉しかった。




「それでですね……」

 おキヌちゃんはいつも食事の時間に、その日にあった出来事を話す。
 今日は買い物にでかけたときに、道端(みちばた)で魔理さんと出会ったらしい。
 俺は二人がお(しゃべ)りしていた内容を、延々と聞かされていた。

「忠夫さん、聞いてますか?」

 おキヌちゃんは、こうして時々チェックを入れてくる。
 最初の頃は、おキヌちゃんの話を全然聞いてなくて生返事だけしていたのだが、そのうちバレてしまった。
 それから数日の間、おキヌちゃんが怒ってロクに口をきいてくれなかったのは、痛い思い出だ。

「ちゃんと聞いてるって。タイガーが約束を守らなかったから、魔理さんが怒っているんだろ?」

 そうなんだ。タイガーと魔理さんは、クリスマス合コンで知り合ってから、ずっとつきあっている。
 ま、ゴールインしたのは俺たちの方が先だったけど、つきあい始めたのはタイガーたちの方が早い。
 割と堅実につきあってるみたいだが、たまにはケンカすることもあるようだ。




「ごちそうさま」

 俺はご飯を三杯おかわりし、おかずを全部平らげて満腹になった。

「はい、お粗末さまでした」

 おキヌちゃんは、空になった茶碗と皿をみて、満足そうな顔をしていた。
 食事を残さず平らげてくれるのが、作った側としては何よりも嬉しいらしい。
 俺にはよくわからないが、おキヌちゃんが寝物語でそう言っていた。

 カチャカチャ

 台所から、おキヌちゃんが食器を洗う音が聞こえてくる。
 俺は満腹感に(ひた)りながら、しばらくボーッとしてテレビを見ていた。

 風呂で一日の疲れは流した。食欲も満たされている。とりあえず眠くはない。
 そうなると……やることは一つしかないだろう。

「おキヌちゃーーん」

「なんですか?」

「少し早いけど、もう寝ない?」

 台所から、ガチャンと皿がぶつかる音が聞こえてきた。
 音の大きさからすると、たぶん割れてはいないと思う。

「で、でも、私まだやることが……」

「いーじゃん、それくらい」

「それに、お風呂もまだ入ってないし」

「シャワー浴びるくらいなら、待ってるからさ」

「わ、私、ちょっと体洗ってきますね!」

 バタバタと小走りしながら、おキヌちゃんが脱衣場に入っていった。
 洗い物をそのままにしているところと見ると、かなり急いでいるようだ。
 少しだけ罪悪感を感じた俺は、おキヌちゃんの残した洗い物を片付けることにした。




 洗い物を片付けた俺は、一足先に寝室に入った。
 ダブルベッドの上でゴロゴロしながら、今日はどんなことをしようかとあれこれ考えていると、自然と顔がにやけてしまう。
 一日の中で、もっとも充実した時間かもしれない。
 もちろん、この後の時間も充実してるけど。

 バタン!

 バスローブを身にまとったおキヌちゃんが、部屋の中に入ってきた。
 そのまま、脇目もふらずにベッドの中にもぐりこんでくる。

「忠夫さん……」

 俺はおキヌちゃんに軽く口づけすると、片手をバスローブの隙間から中に差し入れる。
 案の定、バスローブの下には、何も身に着けていなかった。

 俺の煩悩は、完全に沸騰点(ふっとうてん)を越えた。
 あとはもう、突っ走るしかない!

「おキヌちゃーーん!」

「あっ、いやん♪」

 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……

 えっ、このあと何があったかって!?
 聞かせたいのは山々なんだけど、ちょっとお約束があって話せないのさ。
 無理に話そうとすると、検閲が入って削除されるし。

 というわけで、次の日の朝まで何があったかについては、各自で脳内補完をしてくれ。
 よろしくなっ!


(お・わ・り)


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