普通の高校生が巨大ロボットに乗って戦うなんて、一昔前のマンガの中だけのことだと思っていた。
 しかも、ファンタジー世界で。
 現実には、そんなことありえない。
 なんで俺、こんなことになってるんだ――!?





 ゼロの伝説の勇者

作:湖畔のスナフキン

第一話 −甦る伝説− (01)






 少年が目を覚ますと、すぐ目の前に少女の顔があった。
 肌は白く、桃色がかった金髪をしていた。
 容姿は、可愛らしいといっていいだろう。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。5つの力を司るペンダゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

「えっ、えっ!?」

 少年が驚いて目を丸くさせていると、少女の顔がグッと近づき、そして少女の唇と少年の唇が重なり合った。
 少年は身動きもできずに、そのまま固まってしまう。
 やがて、少女の唇が離れた。

「終わりました。ミスタ・コルベール」

 少女は顔を真っ赤にしていた。
 その少女の視線の先には、中年の男性がいた。
 その男性の服装を見て、少年はまたもや驚いてしまう。
 髪の毛は薄く、頭のてっぺんは見事に禿げていたが、そんなことはどうでもよかった。
 彼は手に大きな木の杖をもち、真っ黒なローブを羽織っていた。
 まるで、ファンタジー映画に出てくる魔法使いのようである。

「サモン・サーヴァントは何回も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんとできたね」

 コルベールと呼ばれた中年の男性が、嬉しそうにうなずいた。
 よくよく見てみると、目の前の少女も黒のローブを着ており、手には小さなステッキをもっている。
 さらには、自分たちの周囲に同じような服装をした、少年・少女たちがずらりと取り囲んでいた。

(サモン・サーヴァント? コントラクト・サーヴァント??)

 聞き慣れない言葉に疑問を感じていると、不意に少年の体が熱くなった。

「ぐあっ! ぐあああああっ!」

「すぐ終わるから、待ってなさい。使い魔のルーンが刻まれているだけだから」

「あ、熱い!」

 熱さはすぐに終わった。
 少年が体を起こして、地面にペタンと座り込んでいると、中年の男性が近づいてきて左手の甲を手に取った。
 そこには、少年が見慣れない文字のようなものが、刻まれていた。

「ふむ……珍しいルーンじゃな」

「な、なんなんだよ、あんた達は!?」

「礼儀をわきまえなさい。平民が貴族に、そんな言葉遣いをしていいと思ってるの!?」

 桃色の髪をした少女が、尊大な態度でそう言った。
 一方、中年の男性の方は、そんなことは気にも留めずに、少年の左手を熱心に見ている。

「さあ、そろそろ教室に戻るぞ」

 さらに驚いたことに、中年の男性の体がふわりと浮き上がった。
 中年の男性だけではない。周囲にいた少年・少女たちも空中に浮かび上がる。
 彼らは、近くにある石造りの建物に向かって飛んでいった。
 あとには少年と、そして少年に口づけした少女だけが残った。

「これ、何の手品?」

「手品じゃないわよ。魔法よ、魔法。あんた、見たことないの?」

「あるわけないだろ。それより、あんたは飛ばないのか?」

 少年がそう言うと、少女は下を向いて唇を尖らせながら、ブツブツとつぶやいた。

「なに、ぶつくさ言ってるの?」

「どうでもいいじゃない! それより、私たちは歩いていくわよ」

 少女が、建物に向かって歩き出した。
 少年も、少女のあとをついていく。

「それより、あんたの名前を聞いてなかったわね」

「俺の名は、才賀(さいが)才賀淳貴(さいがじゅんき)

「変わった名ね?」

 あんたらの方がよほど変わってるよと、才賀淳貴は心の中でつぶやいた。




 夜になって少女の部屋へ移動してから、淳貴とルイズは様々な情報交換を行った。
 ルイズの話によると、ここはハルケギニア大陸のトリステイン王国にあるトリステイン魔法学院。
 トリステイン魔法学院は、メイジと呼ばれる魔法使いを養成する全寮制の学校であるらしい。
 二年生に進級する際に、ルイズはクラスメートと一緒に、授業で使い魔召還の儀式を行った。
 本来なら、使い魔には動物や幻獣などが召還されるはずだが、ルイズの場合は淳貴が召還されてしまったのだ。

「それで、元の世界に戻る方法は?」

「無理よ。サモン・サーヴァントは呼び出すだけ。使い魔を元に戻す呪文なんて、存在しないのよ」

(なんてこった……)

 淳貴は、思わず頭を抱えた。
 淳貴は、母親と妹と一緒に、岩手県の黒神山(くろかみやま)遺跡にきていた。
 淳貴の父親は考古学者だったが、10年前に行方不明となっていた。
 その父親の遺体が、黒神山遺跡で発見されたと、現地の警察から連絡があったのだ。
 現地の警察署で父親の遺品を確認したあと、遺体が見つかった黒神山遺跡へと向かった。
 そこで、自警隊(じけいたい)の前田崎と名乗る人物と軽く会話をしたあと、雨で遺跡が崩れてできた横穴に入った。
 淳貴が入り口近くにあった深い縦穴を覗き込んだとき、急に立ちくらみを感じて、体がフラッと前に傾いた。
 そして白い光に包まれたあと、気がついたら目の前にルイズがいたというわけである。

「ああ、母さんと倉夏(くらか)が心配してるだろうなぁ」

「あんた、家族がいるの?」

「父親はいないけどね。長い間行方不明だったけど、遺体がこのまえ見つかったんだ」

「そう……」

 ルイズが、急に押し黙った。

「それじゃあ、こうしよう。元の世界に帰る方法が見つかるまで、僕が君の使い魔となる。その代わり君は、元の世界に帰る方法を探すのに協力する」

「それで、いいわ」

 話がまとまったところで、疲れているし、今夜は寝ることにした。
 ところが、淳貴の寝る場所がない。
 ルイズに尋ねると、黙って床を指差した。
 ルイズのベッドは三人並んで寝ても余裕があるくらいの広さがあったが、さすがに知り合ったばかりの女の子と同じベッドに寝るわけにもいかない。
 淳貴は、渡された毛布に包まると、床の上で目を閉じた。




 淳貴がトリステイン魔法学院に来てから、数日が過ぎた。
 今のところ、使い魔としての仕事はルイズの雑用である。
 家事はすべて家族に頼り、自分では何もしていなかった淳貴には、けっこう堪えた。
 掃除はともかく、洗濯がつらい。
 もちろん、この世界には洗濯機などはないので、すべて手洗いである。
 しかもルイズは、平気で自分の下着の洗濯を淳貴にさせていた。
 母親と妹に囲まれて女性の下着にもそれなりに見慣れているはずだったが、レースの付いたひらひらしたものを見るたびに、純情な淳貴は顔が赤くなってしまった。

「こんにちは、サイガさん」

 学園で働くメイドのシエスタが、洗い場で洗濯をしていた淳貴に話しかけてきた。

「こんにちは、シエスタ」

 淳貴は、この学園に来ていろんなことに驚いていたが、本物のメイドがいることもその一つだった。
 淳貴の住んでいる東京都立国市にもメイド喫茶があり、そこに行けばメイドのコスプレをしたお姉さんが見れるということは、淳貴も友人たちとの会話というかバカ話の中で聞いていた。
 メイド喫茶に行こうとまでは思わなかったが、悪乗りした友人のオッサン(もちろんあだ名である)が、「今年の学園祭は、クラスでメイド喫茶やろうぜ」などと言い始め、淳貴もけっこうその気になっていた。
 そんなわけで、メイドにはけっこう興味を持っていたのだが、まさかコスプレではない本物のメイドと知り合う機会が出来るとは、思ってもみなかった。

「いつも、大変ですね」

 シエスタは、この世界には珍しく黒い髪をしていた。
 平民らしく素朴な顔立ちをしていたが、美形でもツンツンした性格が多い魔法学院の生徒たちと比べれば、よほど親しみがもてる。
 また、シエスタの世話好きな性格は、淳貴の幼馴染の小早川栞と共通点があり、すぐに打ち解けた関係になった。

「仕事が、なかなか慣れなくて」

「お困りのことがあったら、いつでも聞いてください」

「ありがとう。今は特にないけど……」

 そのとき、淳貴の腹がグーッと鳴った。

「お腹、空いてますか?」

「その……食事が、あんまり貰えなくて」

 食事はルイズと一緒に食堂で食べていたが、食べる際に床に座らせられた上に、メニューは固いパンとスープだけである。
 正直、育ち盛りの淳貴には、かなり堪えていた。
 勝てないケンカはしない主義の淳貴は、表だっての抗議こそしなかったが、この世界の身分制度とやらにはずいぶんと腹が立つことが多かった。

「こちらに、いらしてください」




 淳貴が案内されたのは、食堂の裏にある厨房だった。

「ちょっと、待っててくださいね」

 シエスタは、淳貴を椅子に座らせると、厨房の奥からシチューの入った深皿をもってきた。

「貴族の方々にお出しする料理の余り物で作ったシチューです。よかったら、食べてください」

「いいの?」

「ええ、賄い食ですけど」

 淳貴は、スプーンで一口すすった。
 うまい。
 問答無用のうまさである。
 味付けこそ違っていたが、シエスタがもってきたシチューには、淳貴が食べなれていた母親の手料理と同じ温かさが感じられた。

「とても、おいしいよ」

「よかった。お代わりもありますから、いっぱい召し上がってください」

 淳貴はむさぼるようにして、そのシチューを平らげた。
 シエスタは淳貴と同じテーブルに座りながら、その様子をニコニコと眺めていた。

「ごちそうさま」

「お腹が空いたら、いつでもきてください。私たちが食べているのと同じ料理でよかったら、いつでもお出ししますから」

 シエスタの優しい言葉に、淳貴はホロリとしてしまった。

「ところで、何かお礼がしたいんだけど、俺が手伝えることってあるかな?」

「それなら、食堂にお出しするデザートを運ぶのを手伝ってください」

「わかった」




 それから数十分後、淳貴は学園内のヴェストリの広場で、決闘をする破目となった。
 なぜこうなったかというと、シエスタと一緒にデザートを食堂のテーブルに並べていたときに、シエスタが目の前にいた少年の生徒のポケットから落ちた香水のビンを、その少年に手渡したのである。
 ところが、その香水を見た一年生のケイトという女子生徒が、香水を落とした二年生のギーシュのところに来ると、ポロポロと涙を流した。

「ギーシュさま……やはりギーシュさまは、ミス・モンモランシーと……」

「いや、それは誤解なんだ! いいかい、ケティ。僕の心の中に住んでいるのは、君だけであって……」

「いいえ。その香水は、ミス・モンモランシーが調合した香水じゃないですか!」

 しかしケティは、ギーシュの頬を一発平手打ちすると、そのまま去っていった。
 さらに、それだけではない。
 香水の送り主であるモンモランシーまでが、ギーシュに近寄って、口論を始めた。
 ギーシュの言い訳も虚しく、モンモランシーはビンのフタを開けると、香水をギーシュの頭からぶっかけた。

「待ちたまえ」

 周囲の生徒たちがクスクスと笑う中、シエスタと淳貴がその場から離れようとしたとき、ギーシュがシエスタを呼び止めた。

「君が軽率に香水のビンを拾い上げてくれたお陰で、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね」

「もうしわけありません」

 シエスタは必死になって、ギーシュに頭を下げる。

「二股かけてる、おまえが悪いんじゃないか」

 理不尽さを感じた淳貴が、思わず口を出してしまった。

「君は……ああ、ゼロのルイズが呼び出した平民か。さすが、ゼロの使い魔だけあって、ずいぶんと横柄な態度だ」

 ギーシュは、色白で痩せた体をしていた。
 バラの花を口に加えて、ポーズでもとっていそうなキザ男である。
 勝てないケンカはしない主義の淳貴だったが、目の前の優男には負ける気がしなかった。
 淳貴は口答えこそしなかったが、敵意のこもった目でギーシュを睨みつける。

「どうやら、君は貴族に対する礼儀を知らないようだな」

「俺の住んでいる国には、おまえみたいな貴族なんぞいなかったからな」

「よかろう。君に礼儀を教えてやろう。ヴェストリの広場で待っている」







「ほう……始祖ブリミルの使い魔、ガンダールブか」

「ええ、間違いありません、オールド・オスマン!」

 教師のコルベールが、学院長のオスマンに熱心に説明していた。
 ルイズが呼び出した使い魔の淳貴に現れたルーンが気になったコルベールは、文献で調べた結果、それが伝説の使い魔『ガンダールブ』に刻まれていたものと、同じであることを確認したのである。

「で、君の結論は?」

「あの少年は『ガンダールブ』です! これが大事でなくて、なんなんですか!」

 興奮したコルベールは、つばを飛ばしながらオスマンにまくしたてた。
 オスマンは、顔にかかったつばを、ハンカチで拭ってから答える。

「しかし、それだけで決めつけるのは、早計ではないのかな?」

「そうかもしれません」

 オスマンの冷静な返事を聞いて、興奮していたコルベールがやや落ち着いてきた。
 そのとき、コルベールの背後にあるドアから、ノックする音が聞こえてくる。

「誰じゃ?」

「私です、オールド・オスマン」

 部屋に入ってきたのは、オスマンの秘書であるミス・ロングビルだった。
 メガネがよく似合う、知的な美女である。

「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるようです。大騒ぎになっています。止めに入った教師がいましたが、生徒たちに邪魔されて止められないようです」

「まったく、暇をもてあました貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れとるんだね?」

「一人はギーシュ・ド・グラモン。そして、もう一人はメイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔のようです」

 オスマンとコルベールは、思わず顔を見合わせた。

「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用を求めています」

「アホか。たかが子供のケンカを止めるのに、わざわざ秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい」

「はい」

 ミス・ロングビルが立ち去ってから、オスマンとコルベールが近寄った。

「オールド・オスマン」

「うむ」

 オスマンが杖をさっと振ると、部屋の壁にかかっていた大きな鏡に、ヴェストリ広場の様子が映し出された。



 ヴェストリの広場は、魔法学院の風の塔と火の塔の間にある中庭である。
 淳貴がヴェストリ広場に入ると、騒ぎを聞きつけたルイズが、淳貴に駆け寄ってきた。

「あんた、なに勝手に決闘の約束なんてしてんの!」

 淳貴としては、普通にケンカをしようとしてるだけだが、どうやら周りでは決闘すると受け取っているようである。

「だって、あいつがあまりにも理不尽なことを言うから」

 この世界に来てから、溜まりに溜まっていた淳貴の鬱憤が、ギーシュの件ではじけてしまったらしい。

「いいから、謝っちゃいなさいよ」

「なんで俺が、謝らなくちゃいけないのさ?」

「怪我したくなかったら、謝ってきなさい。今なら、許してくれるかもよ」

「そんな、納得できないよ」

「わからずやね。メイジに平民は絶対に勝てないの! あんたは絶対に怪我するわ。いえ、怪我で済んだら運のいい方よ!」

 淳貴は考えた。
 どうやらメイジの決闘というものは、淳貴が考えていた少年どうしの殴り合いのケンカとは、少々違っているようだ。
 この世界に来て、魔法らしきものはあちこちで目にしたが、戦いで使う魔法についてはまだ見ていない。
 それなら、こちらに少しハンデがあってもいいのではないか?

「わかった。武器が使えるか、相手に聞いてみる。もし武器がダメなら、土下座でもして謝るよ」

「たとえ武器があっても、平民が勝てるわけないじゃないの!」

「あとは、やってみなくちゃわからないよ」

 淳貴はルイズをその場に残し、広場の中央へと進み出た。

「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」

 広場を取り囲んでいた生徒たちから、ワーッという歓声が巻き起こった。
 ギーシュが、手に持っていたバラの造花を掲げて、その歓声に応える。

「よく来たな、平民。とりあえず、逃げずに来たことは、褒めてやろうじゃないか」

「一つだけ、いいか」

「なんだ?」

「君は、魔法を使って戦うんだろう?」

「僕はメイジだからね。当然さ」

「俺は魔法を使えない。だから、ハンデをくれ」

「なにがいい? 剣か槍か?」

「剣だ」

 ギーシュがバラを振ると、一枚の花びらが両刃の剣に変わった。
 ギーシュはその剣を取って投げると、淳貴の目の前の地面に突き刺さった。

「剣。平民どもが、せめてメイジに一矢報いようと磨いた牙さ。さあ、噛みつく気があるなら、その剣を取りたまえ」

 実は淳貴は、子供の頃から剣道をしており、小学校・中学校ともに全国大会にまで出場したほどの腕前だった。
 高校に入ってからは剣道はしていないが、今でもちょっとした自信をもっている。
 淳貴は目の前の剣を取ると、両手で構えてから右足を少し前に出し、剣先を相手の正面に突き出した。
 剣道でいうところの、『正眼の構え』である。

「さてと、では始めるか」

 ギーシュが、再度バラの花を振った。
 花びらが一枚、宙を舞ったかと思うと、それが等身大の大きさの甲冑を着た女性の人形に変化した。

「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュさ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』が、君のお相手をするよ」

 こんな金属製の人形相手に勝てるのかと淳貴は危惧したが、動き出したらそんな不安はすぐに吹き飛んだ。
 体がやけに軽い。
 金属製で重たいはずの剣も、竹刀を振るより軽く感じる。
 矢のような速さで接近した淳貴は、ワルキューレが拳を振り上げるより先に、その胴体を真っ二つに斬った。
 気がつくと、左手に刻まれたルーンが光を発していた。

「ば、バカな!」

 慌てたのは、ギーシュだった。
 全部で7体のゴーレムがギーシュの武器だったが、1体しか使わなかったのは、そこまでしなくても勝てると思っていたからである。
 余裕を失ったギーシュは、6体のワルキューレ全てを出現させた。
 さらに、手には短い槍まで持たせる。
 ギーシュは1体を自分の護衛に残し、5体のワルキューレを淳貴に向かって突撃させた。

 ガッシャ ガッシャ

 音をたてて近づいてくるワルキューレは、それほど鈍い動きではなかったが、今の淳貴には亀の歩みのように遅く感じられた。

 まずは左端の敵から。
 槍をもって振り上げた手を、籠手撃ちの要領で斬り落とす。
 そして、相手の横を駆け抜けてから、振り返りざまに右袈裟で斬った。
 次に、その隣の敵を、返す刀で胴体を二分する。
 さらに、真ん中の敵を、唐竹割りで縦に真っ二つにした。
 残りの二体は、場所を移動してから、それぞれ一太刀で斬って捨てた。

「ひっ!」

 接近してくる淳貴に怯えたギーシュは、護衛用のワルキューレを盾代わりにしたが、すぐにそれも斬られた。
 すべてのワルキューレを失ったギーシュは、腰が抜けて地面に座り込んでしまう。
 淳貴はギーシュの喉元に、手にしていた剣を突きつけた。

「ま、参った!」

 ギーシュが降参したことで、決闘は終わった。
 決闘に勝った淳貴は、剣をギーシュに返すと、踵を返して広場から離れようとする。
 周囲がシーンと静まる中、ルイズだけが淳貴に近寄ってきた。

 急に、重い疲労感が淳貴の体を襲った。
 淳貴はルイズに手を上げようとするが、それすらできずに淳貴の膝が抜けた。
 淳貴はバタンと地面に倒れると、ルイズの目の前で意識を失ってしまった。




「オールド・オスマン」

「うむ」

 遠見の鏡を使って、学院長室から二人の戦いを見ていたオスマンとコルベールが、再び向き合った。

「ギーシュは一番レベルの低いドットメイジですが、それでもただの平民に遅れをとるとは思えません。やはり、彼はガンダールブなのでは!」

「うむ」

「オールド・オスマン。さっそく王宮に、この一大発見を報告しましょう!」

「それには、及ばん」

 コルベールの提言を、オスマンが一言で却下した。

「ミスタ・コルベール。彼は召還された際、本当にただの人間だったのかね?」

「はい。ミス・ヴァリエールが呼び出した際に、ディテクト・マジックで調べたのですが、正真正銘、ただの平民の少年でした」

「そんな、ただの少年を伝説の使い魔ガンダールブにしたのは、誰じゃね?」

「ミス・ヴァリエールです」

「彼女は、優秀なメイジか?」

「いえ、どちらかというと無能ですが……」

「無能なメイジと契約した少年が、なぜガンダールブとなったのか。まったく、謎じゃ」

「確かに、そうですね……」

「どちらにせよ、王宮のぼんくらどもに、ガンダールブを渡すわけにはいくまい。そんな玩具を与えては、また戦争でも引き起こすじゃろうて。宮廷で暇を持て余している連中は、まったく戦好きじゃからな」

「なるほど。学院長のおっしゃるとおりです」

 コルベールは、大の平和主義者である。
 オスマンの発言に、すぐさま納得した。

「この件は私が預かる。他言無用じゃぞ、ミスタ・コルベール」

「は、はいっ! かしこまりました!」

 コルベールはオスマンに一礼すると、学院長室から退室した。




(あとがき)

 SS掲示板にUPしていたこの作品を、こちらにも掲載することにしました。
 今までGSにこだわり続けてきたので少し悩んだのですが(クロスSSも入ってますけど)、話数も増えてきたことですし、読みやすいようHTML化しました。

 もともとファンタジー好きなので、ゼロの使い魔はあっさりとはまりました。
 時期はだいたい、二期のアニメが始まる直前くらいです。
 同じ頃、参考情報としてあげた「あの作品のキャラがルイズに召喚されました〜」を知るようになり、自分でもクロスSSを書いてみようかと思うようになったわけです。

 REIDEENについては、産経新聞社のネットコンテンツであるIZAの記事を流し読みしていたときに、たまたまライディーンリメイクの記事を読んだのがきっかけです。
 『交差する〜』を書き始めてから気がついたのですが、自分はどうやらスーパーロボット系の話がかなり好きみたいです。もう、いい大人なんですが。(苦笑)

 REIDEENはガキんちょの頃にみた『勇者ライディーン』とは中身はまったく別物の話ですが、年齢層が高めに設定されていたこともあり、割とすんなりハマりました。
 ただ、ネット等での情報を集めると、あまり評判はよくなかったようです。
 良くも悪くも、既存のロボットアニメとは、いろいろと路線が違いますので。

 2008年3月現在、『交差する〜』の話がいよいよ佳境に入ってきています。
 作者としては『交差する〜』を優先するつもりであり、この話はどちらかというと息抜きなのですが、佳境に入ったがために『交差する〜』筆の進みが今まで以上に遅くなっているため、こちらの話がけっこう進んでいたりします。
 書きかけの話が溜まってますが(;^^)、今後もよろしくお願いします。


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