ゼロの伝説の勇者
作:湖畔のスナフキン
第二話 −伝説の勇者− (07)
ワルドの遍在の一人はウェールズに、別の一人がタバサに襲い掛かった。
指揮棒のように短いキュルケの杖では接近戦ができないため、キュルケはギーシュと合流する。
ギーシュのワルキューレが前衛に立ち、後方からキュルケが魔法で援護して、二人の遍在と戦い始めた。
本体のワルドと残った遍在の一人は、淳貴と向き合うとエア・ニードルの呪文を唱えた。
「ラ・ロシェールでは魔法を使わなかったが、今度は手加減なしだ。ガンダールブ!」
杖が細かく振動し、回転する空気の渦が鋭利な切っ先となった。
この切っ先で突かれると、人の胴体など容易く貫いてしまうであろう。
「こっちこそ、負けるもんか!」
生命の危険が高まっているにも関わらず、淳貴の動きは一層速くなっていた。
ワルドの鋭い攻撃をすべて受け流し、さらに隙を見てワルドに反撃を加える。
「やはり、伝説の使い魔だけのことはあるな。しかし、これならどうだ!」
ワルドは背後に飛んで淳貴から離れると、ウィンド・ブレイクの呪文を唱え始めた。
淳貴は跳んでかわそうとして、腰を低く落としたが、
「相棒、構えろ! 俺を前に出すんだ」
淳貴は咄嗟に、デルフリンガーの指示どおりに剣を前に出す。
すると、淳貴を吹き飛ばそうとした風が、デルフリンガーの刀身にすべて吸い込まれてしまった。
「デル公、おまえ……」
魔法の風を吸い込んだデルフリンガーは、刀身が青白く発光した。
その光がおさまると、今までの錆びだらけの姿とはうって変わり、今まさに研ぎが終わったかのように光り輝いていた。
「これが本当の俺の姿さ! いやあ、てんで忘れてたよ。つまらん連中とばかりつきあってうんざりしていた時に、てめえの体を変えたんだった!」
「そういう大事なことは、もっと早く言えよ!」
「仕方ねえだろ。すっかり忘れてたんだから。でも、安心しな。ちゃちな魔法は、全部俺が吸い込んでやるからよ。このガンダールブの左腕、デルフリンガー様がな!」
その時、離れた場所で呆然と戦いを見守っていたルイズが、遍在の一人に向かってたたたっと駆け出した。
そして、自分の杖を手に取ると、遍在の一体に向けて呪文を唱える。
「ファイア・ボール!」
もちろん火の玉は出てこなかったが、代わりに激しい爆発が起こった。
しかし、遍在の一体が、その爆発の直撃を食らってしまう。
すると、ボゴンッという激しい音と同時に、その遍在が消滅してしまった。
「えっ!? 本当に消えた? 私の魔法で?」
自分の魔法が効いたことに、ルイズ本人が驚いていた。
しかし、思わず立ち止まってしまったルイズを、ワルドの遍在が狙う。
ルイズは、遍在が突き出した杖に突き飛ばされ、激しい勢いで壁にぶつかってしまった。
「ルイズ!」
淳貴の目が、大きく見開いた。
許せなかった。
騙して結婚しようとしたにせよ、自分の婚約者だった女性にこんな扱いをしてよいのか。
淳貴の胸の内から、怒りの感情がふつふつと湧き上がった。
「俺は、おまえを絶対に許さない!」
淳貴は激しい勢いで、ワルド本体に斬りかかった。
「なぜ貴様は、ルイズのためにそこまで必死になる!? 貴様を使い魔という名の奴隷にしたのは、ルイズ本人なのだぞ」
「ルイズのやる事ことすべてに、納得してるわけじゃない。だけど、だからと言って、こんな乱暴に扱っていいわけはない!」
「身に余る力をもっているくせに、いつまで人の下風に立っているのだ! 俺と一緒に来い! できる限りの便宜は図ってやろう」
「そういう相手の都合を考えない態度が、一番納得できないんだよっ!」
淳貴の感情が高ぶるにつれて、左手のルーンの輝きがいっそう増していく。
「いいぞ、相棒! その調子だ! 思い出したぜ。俺の知ってるガンダールブも、そうやって力を溜めてた。いいか、相棒!」
淳貴は力任せにワルドの杖を叩き伏せると、右足を上げてワルドを思い切り蹴飛ばした。
本体のワルドが床に転がった隙に、ギーシュとキュルケと戦っていた遍在二体を、背後から斬り倒す。
「ガンダールブの強さは心の奮えで決まる! 怒り! 悲しみ! 愛! 喜び! とにかく、心を奮わせるんだ!」
戦いの流れが、一気に淳貴たちに傾いた。
淳貴が本体のワルドを牽制し、手の空いたキュルケとギーシュがウェールズとタバサに加勢する。
残った二体の遍在も、あっという間に倒されてしまった。
「どうやら、ここまでのようだな」
ワルドはフライの呪文を唱えて空中に浮くと、天井近くにある礼拝堂の窓を壊した。
「できれば、これを使わずに済ませたかったのだが、仕方ない。目的のためとあらば、閣下もお許し下さるだろう」
ワルドは懐から細長い筒を取り出すと、空中に信号弾を打ち上げた。
それは、ラ・ロシェールの街でフーケが使ったのと同じ物だった。
「間もなく、我が軍の総攻撃が始まる。だが貴様らは、皆この城で死ぬのだ!」
信号弾の光が消えると同時に、ドゴンという大きな音とともに礼拝堂の建物が激しく揺れた。
淳貴たちが外に飛び出すと、城壁に大穴が開いており、その城壁の向こうに緑色をした巨獣機の姿があった。
「な、なに、あれ!」
巨獣機を初めて見たルイズが、巨獣機を指差しながら驚きの声をあげる。
その巨獣機には、太くて長い腕の下に細い二つの腕が付いており、左右で手が計六本あった。
見たところ、サソリの上半身が直立したかのような姿である。
城壁のすぐ傍にいた巨獣機は、一番上の二本の腕を使って、まるで紙細工に穴を開けるかのように、城壁にボコボコと穴を開けていった。
「あれが巨獣機か!」
同じく初めて巨獣機を見たウェールズが、風の魔法で攻撃したが、巨獣機にはかすり傷一つ与えることができなかった。
「サイガ!」
ルイズが、淳貴の方を振り向いた。
それを見た淳貴が、大きくうなづく。相手が巨獣機であれば、淳貴に迷いはなかった。
「ライディーン!」
天空から、光の柱が地面に走った。
光の柱が地面にぶつかると、そこから巨大な円形の魔法陣が出現し、そしてライディーンが姿を現した。
「フェード・イン!」
淳貴はライディーンに乗り込むと、城壁を崩している巨獣機に向かっていった。
巨獣機は上半身が直立していたが、下半身はムカデのように地面に這う形状をしている。
淳貴はライディーンで巨獣機を城壁から引き剥がそうとしたが、ライディーンが巨獣機に触れる直前に、巨獣機はすーっと姿を消してしまった。
「なに!」
ライディーンの手が、虚しく空を切った。
淳貴はすかさず周囲を確認するが、巨獣機の姿はどこにも見られない。
「相棒、右だ!」
デルフリンガーの警告のすぐ後に、巨獣機に右側から姿を現し、ライディーンを殴った。
淳貴はすかさず反撃するが、ライディーンの拳が届く前に、巨獣機はまたもや姿を消してしまう。
「くそっ! どこへ行った?」
淳貴はライディーンを城壁から遠ざけると、油断なく周囲に気を配った。
「今度は、左!」
巨獣機は姿を消したまま、ライディーンの左手を掴んだ。
ライディーンと感覚を同調していた淳貴は、左手が強い力で捻じ曲げられるのを感じる。
淳貴は痛みを堪えながら、右手で見えない敵の腕を掴むと、思い切り引っ張った。
突然、ボゴンという音とともに、巨獣機の片腕が目に見えるようになった。
引っ張った時の抵抗がなくなったところを見ると、どうやら相手の腕が胴体から外れたらしい。
だが、その直後に外れた腕が爆発した。
爆発のショックで、ライディーンは一歩踏み下がった。
「見えない敵と、どう戦えばいいんだ!?」
「俺なら敵の気配が読めるけどよ。ま、実際に攻撃するのは、相棒だからな」
「どうしたらいい、デル公?」
「こいつの秘めたる力ってやつに、期待するしかねーな。実際、なんとかなりそうな気がするぜ。この前、空を飛んだ時と同じようにな」
淳貴は、一瞬目をつぶった。
淳貴の脳裏に、学園長室で見た石板と、その石板に刻まれた金色の文字の一節が浮かび上がる。
「ゴッドワンド!」
ライディーンの胸から、金色の光が上に向かって放出された。
その光の柱が雲を突き破って上空に達すると、轟音とともに金属製の飾りと三つの宝玉がついた金色の杖が、ライディーンの目の前の地面に突き刺さった。
ライディーンが右手でその杖を手に取ると、左手に光の球が現れる。
ライディーンがその光の球を地面に叩きつけると、ライディーンの足下に円形の魔法陣が出現した。
その魔法陣に、ライディーンの額についているのと同じ紋章が浮かび上がり、そして上空に向かって金色の光を発した。
その光はライディーンを中心にして一つにまとまっていたが、次の瞬間、光が周囲に一気に広がった。
その光はライディーンから離れた場所にいた巨獣機を見つけると、拡散した光が集まって巨獣機を包み込んでしまう。
巨獣機は、姿を隠すことができなくなってしまった。
「ゴッドソード!」
淳貴は、石板に刻まれていた最後の言葉を唱えた。
ライディーンの背中に折りたたまれていた二つの翼の間が割れ、そこからグレートソードに似た両刃の大きな剣が姿を現した。
そして、背中の剣が上空に射出されると、ライディーンは回転しながら落ちてくるその剣を手に取り、両手で構えた。
姿を消すことができなくなった巨獣機は、残った五本の腕をミサイルのように発射した。
しかし、淳貴はゴッドソードを振るって、飛来してきた巨獣機の腕をすべて斬ってしまう。
巨獣機の腕はライディーンに触れることなく、全部空中で爆発してしまった。
「いくぞっ!」
攻撃手段をすべて失ったのか、巨獣機はライディーンに背を向け逃げようとした。
しかし淳貴は、すかさずライディーンで巨獣機を追撃する。
逃げる巨獣機に追いついたライディーンは、直立した上半身の根元にゴッドソードを突き刺した。
ライディーンがゴッドソードで巨獣機の上半身を真っ二つに裂くと、巨獣機は大爆発を起こしてその最後を遂げた。
淳貴は、ライディーンで巨獣機を撃破したが、戦いはまだ終わっていなかった。
ニューカッスルの城を取り囲んでいた浮かんだ艦隊が、ライディーンに大砲を向け、また地上にいたメイジたちがそれぞれの技量に応じたゴーレムを造り出していた。
さらに五万の大軍が、ニューカッスルの城目掛けて進軍を開始していた。
「どうするね、相棒? まあ、こいつの力なら、五万だろうが十万だろうが、敵を蹴散らすのはわけないだろうよ」
「ライディーンで人と戦ったら、それは戦いじゃない。ただの虐殺だ」
「でもよ、このままじゃ城はすぐに陥ちるぜ。さっきの巨獣機が開けた大穴が、そのまま残っているからな」
確かに、デルフリンガーの言うとおりだった。
このままでは敵軍はすぐに城内に侵入し、アルビオン軍だけでなく、ルイズたちまでも皆殺しにされてしまうだろう。
(どうしたらいい……)
しかし、レコン・キスタは、淳貴に悩む時間を与えてはくれなかった。
動きが止まったライディーンに、土系のメイジたちが造ったゴーレムの群れが迫る。
空からは艦隊が砲撃を加え、また地上からメイジたちが火・風・水の魔法を撃ちまくった。
「やるしか……ないっ!」
土ゴーレムたちが間近に迫った時、淳貴は決断を下した。
淳貴はライディーンでゴッドアローを出すと、のそりのそりと迫ってくる土ゴーレムに向かって、最小の威力で光の矢を放った。
ライディーンの放った光の矢が命中すると、土ゴーレムが爆発する。さらに、ゴッドアローが命中した場所に生じたブラックホールのような黒い穴が、爆発した土ゴーレムの破片をすべて吸い込んでいった。
ドガン、ドガン!
空中に浮いていた戦艦が、大砲をライディーン目掛けて発射した。
戦艦の一斉射撃でライディーンにもかなりの弾が命中したが、ライディーンはびくともしなかった。
逆に、砲弾の雨をものともせずに、ライディーンは戦艦レキシントンに接近すると、高度を下げていたレキシントンの船腹をゴッドソードで斬った。
レキシントンには、ゴッドソードの切っ先しかあたらなかったが、船腹が一直線に裂かれたその傷により、レキシントンの備砲のほとんどが使い物にならなくなってしまった。
足下で魔法を撃つメイジたちを見つけると、淳貴はゴッド・ワンドで近くの地面を強く叩いた。
金属製の杖の先が地中に深くささり、地面には地割れが発生する。
近くにいたメイジや平民の兵士たちは、激しい揺れのため多くが地面にひっくり返ってしまった。
淳貴が気がついた時には、レコン・キスタの軍隊が潰走していた。
備砲を壊され、帆や翼にもダメージを負った戦艦やその他の船は、生き残った大砲を撃ちながらこの空域から撤退しようとしていた。
最後まで戦場に残っていたのは、一部の勇気あるメイジたちだったが、彼らも淳貴がゴッド・ワンドで追い立てると、この場から逃げ去っていった。
この戦いの有様を、ウェールズや王党派の貴族たちは、ニューカッスルの城の城壁から見ていた。
最初は、ライディーンと巨獣機によるハルケギニアの常識を越えた戦いには驚きの色を隠せなかったが、やがてレコン・キスタがライディーンに攻撃すると、彼らの間にどよめきが走った。
そして、ライディーンがゴーレムを倒し、空中の戦艦にダメージを与えるごとに、喝采の声があった。
レコン・キスタの軍が潰走を始めると、若い貴族は喜びのあまり叫び声をあげ、年老いた貴族は両目に涙を浮かべていた。
敵わぬまでもレコン・キスタに一矢を報いたい、それが彼らの共通の願いだった。
そして、その願いを生きて目にすることができるとは、誰も思っていなかったからである。
「かような奇跡を目にすることができるとは……長年お仕えしてきましたこのバリーにも、初めてのことです! いやはや、長生きはするものですな」
それは、老バリーとて例外ではなかった。
バリーの隣にいたウェールズも、目から熱い涙をこぼしていたが、やがて服の袖で涙をぬぐうと、近くにいた貴族たちを呼び集めた。
「皆、聞いてくれ。私は亡命することを決断した」
「なんですと!」
ウェールズの思いもよらない発言に、バリーが驚きの声をあげる。
また、ウェールズの周囲にいた貴族たちも、がやがやと騒ぎ始めた。
「さっきの敵を見ただろう? あれには魔法も大砲も効きそうにない。次に叛徒どもが攻めてきた時には、今日のような敵をきっと用意するだろうね」
「ですが、殿下! 我々にはまだ、戦う力が残っています」
「トリステインの使者はいずれ帰国する。今日の戦で我々を助けてくれた黄金の巨人は、その時にはいないのだ」
ウェールズを見つめていた貴族たちが、視線を伏せた。
今日現れた敵に、自分たちの力が及びそうにないことは、多くの貴族が察していた。
「今日のような敵が再び現れた日には、我らは名誉を示す余裕すら、与えてはもらえないだろう。今、故国を後にするのは大変無念なことだが、ここは一度退いて次の機会を待つべきだと思う」
ウェールズは周囲をゆっくりと見回したが、誰も反論してくる者がいなかった。
「ウェールズ殿下! それでは、トリステインに亡命なさるのですか?」
ウェールズの傍にいたルイズが、ここぞとばかりに声を張り上げた。
「トリステインには亡命しないよ。叛徒たちにトリステイン侵略の口実を与えてしまうからな。最終的な行き先はわからないが、まずはロマリアを頼ろうと思う」
アンリエッタの気持ちを思ったルイズは、ウェールズの発言に少しがっかりしたが、アルビオンに残って討ち死にするよりはマシだと気持ちを切り替えた。
「私はこれから王に進言してくる。残った者は手分けして、城の警備と城壁の修復をするように」
ウェールズは手短に指示を下すと、自らは王の待つ城の本塔へと入っていった。
淳貴が目を覚ました時、自分が知らない部屋で寝ていたことに気がついた。
「どこだ、ここは……?」
淳貴が体を起こそうとすると、すぐ傍から「目が覚めた?」というルイズの声が聞こえた。
「俺は、いったい……」
淳貴は頭を振りながら、自分の記憶を探った。
敵を追い払ってから城に戻ってライディーンから出たが、その後の記憶がまったくない。
「覚えてないの? サイガは、ライディーンから降りてすぐに、気を失って倒れたのよ。怪我はなかったから、手を借りて空いてる部屋に運んだの」
「相棒は、ガンダールブの力を使いすぎたのさ。まあ、疲れただけだから、眠れば回復するがね」
カタカタと音を鳴らしながら、ベッドの脇に立てかけていたデルフリンガーがそう言った。
「そう言えば、城は? 敵はどうなったんだ?」
「大丈夫よ。今、王党派の貴族たちが亡命の準備をしているわ。ラ・ロシェールに向かったイーグル号が戻ってくるまで、あと半日くらいは待たないといけないけど、敗走した軍を立て直すにはかなり時間がかかるから大丈夫だろうって、ウェールズ皇太子が言ってた」
「そうなんだ」
「とりあえず、イーグル号がもう一度出航するまでは、残って欲しいって頼まれてる」
「わかった」
淳貴はベッドから上半身を起こすと、うーんと伸びをした。
どうやら、かなりの時間眠っていたらしく、体の疲れはすっかり取れていた。
「帰りはどうする? イーグル号と一緒に、ラ・ロシェールまで行くのかな?」
「なに、バカなこと言ってるのよ」
ルイズが、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「ゴッドバードで帰るに決まってるじゃない。私だけ乗ったことないだなんて、不公平だわ」
翌朝、亡命するアルビオン貴族たちを乗せたイーグル号と一緒に、淳貴たちはニューカッスルを後にした。
ルイズとキュルケとタバサとギーシュは、ゴッドバードの足に乗っかっている。
タバサの使い魔のシルフィードも、体を丸めてゴッドバードの足に掴まった。
「ねえ、サイガ。これって、どのくらいの速さで飛べるの?」
現在、およそマッハ1のスピード――風竜の最高速度の約二倍である――で、ゴッドバードは飛行していた。
ルイズたちは、足下をどんどん流れていく地上の風景に、すっかり見とれている。
風圧がものすごかったが、タバサが作った風の魔法の壁がそれを防いでいた。
「わからないけど、たぶん今の何倍もの速さで飛べると思うよ」
「本当に、本当にすごいわっ!」
困難な任務を成し遂げた開放感からか、ルイズは子供のように喜んでいた。
しかし、淳貴の目には、ルイズがわざとはしゃいでいるようにも見えた。
誰も口にはしなかったが、ルイズの婚約者だったワルド子爵の裏切りは、皆の心に重苦しい何かを残していた。
「これから、いったいどうなるんだろう」
任務達成の充実感と同時に、先行きへの不安な思いが、淳貴の心に芽生えていた。
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