ルシオラ in もし星が神ならば!

作:湖畔のスナフキン

(上)



(注)原作を再構成した作品です。コンセプトは『もしあの話にルシオラが出ていたら〜』です。


「夕陽って、何度見てもきれいね──」

 東京タワーの展望台の上で横島とルシオラは、夕陽を眺めていた。
 ルシオラはうっとりとした表情で、沈み行く夕陽を見つめている。
 しかし隣に座っていた横島は、夕陽よりもルシオラの横顔に見入っていた。
 横島は体をプルプルと振るわせて煩悩の発露を抑えていたが、とうとう耐えきれなくなった。

「ルシオラーー!」

 横島はルシオラ目掛けて、ガバッと飛びかかる。

「キャー!」

 バキッ!

 横島は見事に撃沈する。

「ううっ、ちょっとだけ“チュウ”したかっただけなのに──」
「急にされたらびっくりするでしょ! ちゃんと流れを読んでよ」
「おあずけ食ってる男に、そんなの読めるかー!」

 いつもならば、ここでルシオラが「ばっかね〜〜」と言って許してくれるのだが、今日は違っていた。

「せっかく雰囲気にひたっていたのに、気分が台無しだわ。今日はだーめ!」

 ウルウルと悔し涙を流す横島だった。




 その日の三日後は七夕の日であった。夕方におキヌが、事務所の中で笹の飾り付けをする。

「氷室さん、どうして七月七日に笹を飾るんです?」

 手伝っていたルシオラが、おキヌに尋ねる。

「それは、こういう言い伝えがあるからなんですよ」



天の神様の娘「織姫」は、牛飼いの青年「彦星」と恋をしました。

ところが恋に落ちた二人は、仕事がまったく手につきません。

怒った神様は、二人を天の川の両側に引き離してしまいました。

しかし、悲しむ二人をあわれに思い、七月七日の夜にだけ二人が会うことを許したのです。




「それで二人の恋人は、自分たちが会える日を祝ってくれた人の願いを叶えてくれるんです。願い事のある人は笹に願いを書いた短冊を飾っておくんですよ」
「年に一度のデートか……ロマンチックな話ね」
「パピも願いごとを書いたでちゅ」

 パピリオが願い事を書いた短冊を持って、駆け寄ってきた。

「どれどれ──“ゲームステーションの新作ソフト”──これは願い事じゃなくて、自分が欲しいものでしょうが」
「まぁまぁ、せっかくだから飾っておきましょうよ」

 おキヌがパピリオの短冊を笹の葉につけた。

「ルシオラさんは短冊をつけないんですか」
「私はあとで。氷室さんこそ」
「私もあとでいいです」

(ヨコシマと仲直りしたいなんて、氷室さんの目の前では書けないわね)
(横島さんともっと仲良くなりたいなんて、ルシオラさんの前では……)

 二人は、ホホホという少々乾いた笑い声をあげた。

「そ、そう言えば美神さんは?」
「私? 私はそういう少女イベントには参加しないことにしているのよ」

 自分の机で書類仕事をしていた美神が、顔をあげた。

「ところで横島クンは?」
「今日は用事があるって言ってましたけど、そろそろ来ると思いますよ」
「ちわーす、遅くなりました」

 手に紙袋をもった横島が、事務所に入ってきた。

「おっ! おキヌちゃん短冊を飾ってるね。俺もやろうかな〜」

 そう言って、紙袋の中から大量の短冊を取り出した。
 そこに書いてあったのは……

 『いい女と情熱的な一夜をすごしたい』
 『いい女と情熱的な一夜をすごしたい』
 『いい女と情熱的な一夜をすごしたい』
 『いい女と情熱的な一夜をすごしたい』
  ・
  ・
  ・
  ・

「あっ、笹が折れちゃった」

 一度に何十枚もの短冊を笹につければ、そうなって当然である。

「当たり前でしょ! もっとマシなことにエネルギーを使いなさいよ!」

 スパーン!

 美神はすかさずハリセンでツッコミを入れた。
 しかしその時……

 バチッ! バチバチバチ!

 大量の短冊をぶら下げた笹が、突如として発光し始めた。

「霊体だわ! 何か強力なパワーを持った霊体が、事務所の結界の中に割り込もうとしている!」

 美神は急いで自分の机に戻ると、愛用の神通棍(じんつうこん)を手に取り構えた。




 バリッ! バリバリバリバリ……

「横島さんの短冊が……」
「共鳴している!? まさか──」

 カッ!

 笹が閃光を発した。

「ウワッ!」
「キャー!」

 シュウシュウシュウ……

 しばらくして閃光がおさまると、部屋の中央にしゃがんで顔を伏せている一人の女性が出現していた。

「ま、まさか、俺の願いが星に届いたのか! ひょっとして宇宙から美女の出前が──」

 しかし横島の淡い期待もそこまでであった。
 ムクリと起き上がったその女性の身長は、二メートルを越えていた。
 プロレスラー並のごつい体格で、いかつい顔つきをしている。
 さらに周囲からは“ふしゅーふしゅるるー”と妖怪のような近い効果音まで発せられていた。

(な、なんか、昔会った女華姫(めがひめ)さまにそっくり!)

 そういう感想をもったのは、おキヌである。

「おぬしじゃな、わらわを呼び寄せたのは」

 女が横島の(えり)をグッと掴んだ。

「ヨコチマ!」

 パピリオが飛びかかろうとする。

「待って、パピリオ! あいつかなりの霊力があるわ。うかつに手を出すと危険よ!」
「ルシオラの言うとうりだわ。それにあなたたちが直接神族に手を出すと、デタントの関係であとあと厄介(やっかい)なことに──」

 美神とルシオラが、パピリオを引き止める。

「短冊に込めたそなたの念、しかと受けとめた。願いを叶えてつかわそうぞ」

 巨大な体の女が襟首(えりくび)を掴んだまま、横島の体を持ち上げる。

「ちょ、ちょっと待て! その前にあんた誰!?」
「我が名は……織姫!」

 ズシャーーッ!

 織姫に襟首(えりくび)を掴まれた横島を除き、いっせいにずっこける。

「望みどうり、わらわと情熱的な一夜を。今宵そなたは、わらわのダーリンじゃ」
「どこの世界に、こんな織姫がいるんじゃ〜〜。話がちがう〜〜!」

 バチッ! バチバチバチ!

 笹が再び発光し始めた。織姫がすかさず背後を振り向く。

「また浮気か、織姫! 年に一度の逢瀬(おうせ)の日だというのに──」

 発光した笹から、一人の男が現れた。おおよそ30歳ほどの年齢に見える。

「女好きの男を見つけては、人間界で浮気……今年こそは許さん!」
「ちっ、彦星か。そちの顔は見飽きたわ! わらわは刺激が欲しいのじゃ!」

 織姫が左手を伸ばして構える。

「むっ!」

 特大の霊波砲が、彦星を直撃した。彦星は背中から床に叩き付けられてしまう。
 霊波砲の余波は、そのまま壁と事務所の結界に大穴を開けた。

「おいっ、スピードの速い乗り物はあるか? かけおちじゃ!」
「な、なんで俺が──! 乗り物なんか知らねえ!」
「ふんっ!」

 織姫は床を拳で殴りつけた。

 ボコッ!

 床に下の一階へと続く大穴が開く。

「もう一度聞く。乗り物は?」
「ガレージにコブラがあります!」

 横島は既に、半分泣きが入っていた。




 織姫の一撃を受け床に倒れていた彦星が、むくりと起き上がった。
 織姫と横島を追って、一階へと下りていく。

 バンッ!

 ガレージのシャッターをぶち破り、横島と織姫の乗ったACコブラが路上へと飛び出した。

 スタタタタタタ……

 彦星がコブラの後を走って追いかける。

 ガシッ!

 彦星は驚異的な速度でコブラに追いつくと、腕を伸ばしてコブラのトランクの取っ手を掴んだ。

「運転せい!」
「は、はい!」

 織姫は助手席にいた横島を運転席に押し込むと、(ふところ)から斧を取り出す。

「どすこーーい!」

 織姫はトランクを掴んでいた彦星の両手を、斧で叩き切った。

「ぐわっ!」

 ゴロゴロゴロ

 腕を切られた彦星は、そのまま道路の上を転がっていった。

「ちょ、ちょっとアンタ、大丈夫?」

 後から追いかけてきた美神が、彦星に声をかける。
 彦星は何事もなかったかのように起き上がると、切り離された手首を呼び戻し、腕にくっつけたが──

「に、逃げられちゃいました」

 彦星はその場で、滝のような涙を流した。



 美神たちはいったん事務所へと戻り、彦星から詳しい話を聞いた。

「実を言うと、この何百年か織姫は浮気のし通しなのです。会えるのは年に一度でも、我らが恋仲になってから何億年もたっているので倦怠期(けんたいき)になったと言って……」
「ま、まだ大丈夫よ。一緒に探してあげるから」
「でもその間に何かあったら、同じことじゃないですか! 二人きりなんですよ、二人っきり!」

 彦星は真剣な表情で、美神に訴える。

「よ、横島さん、あれでけっこう腕が立ちますから……」
「いくら神族相手でも、ヨコシマがそうむざむざと手ごめにされることはないと思いますが──」
「あります! なぜならわれわれ天星神族には──」



「許してー! 降ろしてー!」
「そう騒ぐでない、ダーリン。せっかくの夜を楽しもうぞ」
「い、言っとくがGSは魔物の餌食にはならんからなっ。俺に指一本でも触れれば──」

 だがそういう横島は全身をガタガタとふるわせ、冷や汗をタラタラと流していた。

「心配せずとも、そちもすぐに気が変わる。なぜならわれわれ天星神族には──」

 織姫の姿がゆらりと(かす)み、別の姿に変貌(へんぼう)をはじめる。

「変身能力があるからな♪」

 変化した織姫の姿は、ルシオラそっくりになっていた。


(続く)


【後書き】

 『ルシオラ in 〜』シリーズについてですが、『ザ・グレート・展開予想ショー』に投稿されているハルカさんの発案です。
 私の方が後から便乗して、この作品を書きました。(ハルカさんの承諾はもらっています)


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