俺たち高校二年生!

(まぶらほ+涼宮ハルヒの憂鬱+GS美神)

作:湖畔のスナフキン



(1)

 式森和樹は、駅前の通りを全力で走っていた。
 連休の一日目。昼前ということもあり、駅前の通りは人でごった返していたが、和樹が走ってくると、彼を避けるかのように人ごみがサッと二つに分かれる。
 そして懸命に走る和樹を、二人の少女が追いかけていた。
 一人は長い髪を後ろに垂らした美しい少女だったが、彼女の周囲には炎の精霊、ザラマンダーが何匹も出ている。
 もう一人は、袴をはいた小柄で日本人形みたいな少女だったが、手には日本刀を握っていた。

「和樹さん! 今度という今度は、絶対に許しません!」
「式森! おまえという男は、なんてふしだらなんだ! この手で成敗してくれる!」
「だから、それは誤解なんだってば〜〜」

 だが和樹の弁解の声は、怒り狂った二人の少女、夕菜と凜には少しも聞こえていなかった。



 ――事件の発端はこうであった。
 和樹の周囲にいる少女たちの中で、ただひとり彼と同居していない千早が、彼の家を訪れた。
 千早は彼らの家に着くと、深呼吸をしてからインターフォンのボタンを押す。

「はーい。ちょっと待ってください」

 玄関のドアを開けたのは、和樹だった。
 だが、今しがたまで寝ていたのか、応対に出た和樹は半分しか目が開いてなく、ぼーっとした表情をしていた。
 そんな和樹だったが、彼の顔を見た千早の頬がサッと赤くなった。

「あ……山瀬さん?」

「あの、昨日クッキーを焼いたんだけど、作りすぎちゃったから、式森君や宮間さんたちにお裾分けしようと思って」

「そうなんだ。玄関先でもなんだから、とりあえず上がって」

「うん」

 そのときだった。
 居間で二度寝していた和樹の体は、まだ完全に覚醒しておらず、千早を招きいれようとドアを大きく開けたときにバランスが崩れ、千早に向かって倒れ込んでしまった。
 千早も和樹の体を支えきれず、地面に尻もちをついてしまう。

「和樹さん、お客さんですか?」

「式森、誰か訪ねてきたのか」

 その時、和樹の声を聞いた夕菜と凜が、二階から降りてきた。
 だが、階段の途中で二人が見たのは、玄関先で千早を押し倒している和樹の姿だった。
 次の瞬間、嫉妬の鬼である夕菜と、潔癖症の凜、二人の美少女は修羅へと変貌を遂げたのである。



「和樹さん!」

「式森!」

「宮間さん、神城さん、待って!」

「夕菜ちゃんも凜も、少し落ち着きなさいよ!」

 暴走する二人の少女を、今回の騒動の原因となった千早と、なし崩しに騒動に巻き込まれた玖里子が、追いかけていた。
 舞穂も面白がって一緒に家を出たが、いかんせん子供の舞穂は足が遅く、この場にはいなかった。

「和樹さん、もう逃げられませんよ!」

「式森! 覚悟するんだな」

 和樹はとうとう、出口のない路地へと追い込まれてしまった。

「あ、あのさ……お願いだから、話し合おうよ」

「「問答無用!!」」

 夕菜の手から精霊魔法が、そして凜が振り下ろした刀からは、特大の衝撃波が飛び出した。




(2)

 昼が近くなって空腹を感じた俺は、適当な駅で電車を降りた。
 東京の地理に不案内な俺は、ここが東京のどの辺りにある街か、さっぱりわからない。
 とにかく、どこかでメシを食おうと改札を出たとたん、ドーーンという爆発音が聞こえ、そして近くの路地から煙が立ち昇るのが見えた。

「なんだ……ガス爆発か?」

 正直、厄介ごとには関わりたくなかった。
 稀代の奇人変人、涼宮ハルヒ率いるSOS団に入ってからというものの、俺の身の回りには想像を絶するような奇妙な事件が、次々と起こったのである。
 それだけじゃない。二年生に進級した後、同じ中学に通っていた佐々木と再会してからは、佐々木率いる佐々木団(仮)まで、俺にまとわりつくようになった。
 とてもじゃないけど、地元にいては俺は安らぐことができない。
 俺は磨り減らした心身を回復すべく、連休を利用して知り合いが誰もいない東京見物へと出かけたのであるが、

「キョン〜〜やっと、見つけたわよ」

 俺の背後から、今一番会いたくないやつの声が聞こえてきた。
 ギギギと音をたてるように、首を小刻みに動かしながら後ろを振り向くと、案の定、ハルヒが偉そうに腕を組みながら立っていた。
 そしてハルヒの背後には、朝比奈さんと長門の姿もある。

「な、なぜハルヒが、ここにいるんだ!?」

「今朝キョンの家に電話したら、あんたが一人で東京に出かけたって、妹ちゃんがいうじゃない?
 行き先がわからないって言ってたけど、その後ちょうど有希が電話をかけてきて、インターネット
 の特別検索で、キョンの乗った電車の時刻を調べたのよ。
 あんたが、のんびりひかりで移動してたから、有希とみくるちゃんと合流したあと、のぞみで
 あんたを追いかけたってわけ」

 長門! インターネットの特別検索って、絶対ウソだろっ!
 新幹線の自由席に乗った俺を、長門の宇宙パワー以外でどうやって調べられるんだ!?

「東京に着いてからはヤマ勘で移動したけど、ずばり大正解だったわね!
 さあ、キョン覚悟しなさい。
 とりあえず、キョンのおごりで昼食を食べてから、どこに遊びに行くか決めましょう。
 それか、東京で不思議探索ツアーをやるのも、いいかもしれないわね」

 相変わらず、無茶苦茶なヤツだな。それはともかく、また俺がおごるのか!?

「やあ、キョン! こんな場所で会うとは、実に奇遇だね」

 俺の斜め後ろから、俺が二番目に会いたくなかった人物の声が、聞こえてきた。
 声のした方を振り向くと、それはやっぱり佐々木であり、佐々木団(仮)のメンバーである橘と周防九曜も一緒だった。

「おや。涼宮さんたちも一緒だったのかい?
 僕が今朝、君の妹さんから入手した情報によると、君はたしか一人で東京に出かけたはずだったが」

 そうさ。出かけるときは、たしかに一人だったよ。
 それはともかく、なんでお前たちがここにいるんだ?

「せっかくの連休だからね。デ○○○ーランドに皆で遊びに行こうと、予定を立てていたんだ。
 ちょうど橘さんが、フリーチケットを知り合いからもらったって言ってたしね。
 キョンもどうだい? 一人分なら、チケットが余っているけど」

 言いたくはないが、いつから予定していたのかあやしいものだ。
 前から予定していたのなら、どうして今日になって俺の予定を妹に聞いたんだ?
 たぶん、俺の予定を知ってから、計画を立てたんだろう。
 橘の背後の組織ならフリーチケットくらいすぐに入手可能だろうし、長門と同じで、周防の力なら俺の居場所を調べることくらい朝飯前だろうからな。

「待って、佐々木さん。今日のキョンのスケジュールは、SOS団の活動の方が優先されるわ」

「それはどうかな? ここに来る途中、新幹線の中で涼宮さんたちを見かけたけど、キョンは一緒じゃなかったよね?」

「そ、それはね! キョンだけ現地集合だったのよ!」

「僕が調べた情報によると、今日のSOS団の活動予定はなかったはずだけど。それとも、SOS団の団長さんは、休日に団員の行動を監視するのが趣味だとか――?」

 その発言を皮切りに、ハルヒと佐々木の間で壮絶な舌戦が開始された。
 今なら……逃げてもいいよな?

「――――あなたは――――私たちと一緒に……来るべき――――」

 だが、世の中そうは甘くなかった。
 後ずさりながら、隙を見て逃げようとする俺の左手を、天蓋領域製のヒューマノイド・インターフェイス、つまり周防九曜ががっちりと掴む。

「うふふふ……キョン君、逃げたりしたら“めっ”ですよ」

 そして空いた右腕を、朝比奈さんが脇に挟んで押さえ込んだ。
 あの……朝比奈さん。何か柔らかいものが当たっているのは嬉しいんですが、朝比奈さんの背後から黒い瘴気のようなものが立ち上ってるのは、俺の気のせいですよ、ね?

「佐々木さんも涼宮さんも、東京まで来てケンカするのやめてくださいっ!
 ああっ、もう! あなたも、なんとか言ってよ!」

 なんとかしたいのは、やまやまなんだがな、橘。両手を塞がれている今の俺に、いったい何ができるというのだ?
 長門はさっきから、周防とにらみ合いを続けているし。
 どうにかして欲しいのは、俺の方だよ。

「「キョン!」」

 舌戦をしていたハルヒと佐々木が、同時に俺の方を振り向いた。

「はなはだ心外だけど、ここで口論してもきりがないから、キョンに選んでもらうことにしたわ」

「地元ならともかく、東京まで来て時間を無駄にしたくないしね。
 さあ、キョン。僕を取るか涼宮さんを取るか、君が好きな方を選んでくれたまえ」

 たかだか遊ぶ相手を選ぶだけなのに、二人からはこれ以上ないほどの強い気迫が伝わってきた。
 つーか、このままおさらばするという選択肢はないのか!?
 ……まあ、用意されていないんだろうなけどな、きっと。




(3)

「おキヌちゃん、このままじゃマズいわね……」

「そうですね。美神さん」

 美神とおキヌは、除霊現場近くにある駅前の広場で、横島と待ち合わせをしていた。
 普段は事務所に集合してから仕事に出かけるのであるが、昨夜は仕事が終わるのが遅かったため、時間を短縮するために現場近くで待ち合わせをすることにしたのである。
 お陰で美神とおキヌはゆっくりと朝寝をすることができたが、今回はその決断が裏目に出ていた。

「今、この場に横島さんが来たら……」

「ええ。間違いなく、暴走するわね」

 美神とおキヌの視線は、同じ広場にいる二つのグループに向けられていた。
 おキヌの視線は、くすぶった煙を上げている和樹と、その和樹を引きずっている夕菜と凜。
 そして和樹たちを追って歩いている玖里子と千早に向けられている。
 一方、美神の視線は、広場の一隅でキョンを取り囲んでりる計六人の美少女に向けられていた。

(胸が大きくて美人な人ばかり……
 特に、あの長い栗色の髪をした人は、ちょっと美神さんに雰囲気似てるかも)

 おキヌの注目は、特に玖里子に注がれている。

(横島くん好みの可愛い娘が多いわね。
 特に、あのロリっぽくて守ってあげたい雰囲気がする子なんかは、胸も大きいし要注意だわ)

 令子の険しい目つきは、みくるに向けられていた。

「ちわーーっす。遅くなりました」

 そのとき、駅の改札口から横島が出てきた。
 美神とおキヌは横島の姿を視認すると、挨拶もせずに横島に近寄り、二人で横島の両腕をがっちりと挟み込む。

「え? え? 二人ともいったい、どうしたんッスか?」

「ホホホ……な、なんでもないわよ、横島くん」

「そ、そうなんです。本当に、なんでもないんです」

 そう言いながらも、美神とおキヌは横島の体をずりずりと引きずり、駅前の広場から離れようとした。

「現場に行く前に、みんなでランチでも食べましょうか」

「ええ、いい考えですね。美神さん」

「ランチを食べるなら、駅前の方が店が多いんじゃ――」

 その言葉を聞いた途端、拘束されていた横島の両腕に、いっそう大きな力が加えられる。

「とにかく、急いでこの場から離れるのよ」

「横島さん、ここは危険地帯なんです!」

 頭の中にクエスションマークを浮かべながらながらも、美神とおキヌに同時に密着していることに気をよくした横島は、そのまま大人しく引きずられていった。




(おまけ)

「フン、くだらん茶番だ」

 一連の騒動を、離れた場所から監視していた藤原がこの場を立ち去ろうとしたとき、突然背後から声をかけられた。

「休日なのに、佐々木さんたちの見張りですか。あなたも精が出ますね」

 佐々木団(仮)所属の未来人である藤原に声をかけたのは、SOS団所属のエスパー、古泉だった。

「貴様だって、そうだろうが。年中無休で、あの女のお守りをしてるだろう。ご苦労なことだ」

「ついでに言わせてもらえば、あなたの監視も兼ねているのですよ。
 佐々木さんの登場以来、あなたや橘さんの組織は表立った活動を控えているとはいえ、隙を見せ
 れば、また誘拐事件が起きないとは限らない」

「それこそ、ご苦労なことだ。別に貴様が出てこなくても、他に人員がいるだろう」

 藤原の数々の毒舌にも関わらず、古泉は浮かべた微笑をまったく崩さなかった。

「それから、僕の話を聞いてもらいたくてね。
 本来、これは彼の役目なのですが、彼はあのとおり身動きできない状態ですから」

 古泉は、ハルヒや佐々木たちに囲まれたままのキョンを指差した。

「いいだろう。暇つぶしに聞いてやる」

「あの広場を囲むようにして時間断層が出来ていることは、あなたも把握していると思いますが、
 それだけではない。時間断層だけではなく、次元断層も出現しています」

 苦虫を噛み潰したような顔をしていた藤原が、一瞬驚きの表情を見せた。

「なぜ、そんなことがわかるのかとお思いのようですね。
 なぜかはわかりませんが、わかってしまうのです。そして、問題はそれだけではない。
 あの広場の中には、明らかに我々と異なる能力の持ち主が、紛れ込んでいます」

「つまり、あの女がやったと、言いたいわけだな」

「結論から言えばそうです。涼宮さんが会いたいと願った人の中で、まだ彼女が会っていない人が
 います。そう、異世界人です」

「それで、おまえはこの事態に、どう決着を着けるつもりなんだ?」

「簡単です。涼宮さんの興味を、そらしてしまえばいいのです。
 彼女は東京に、新たな発見があるのではと期待していた。その想いが、異世界人を呼んでしまった
 のですが、彼女の興味を別の方向に振り向けてしまえば、異世界人は元の世界に戻されるでしょう」

 古泉はポケットから、デ○○○ーランドのフリーチケットの束を取り出した。

「全員が二日間、遊べるだけの数があります。
 彼に究極の選択を選ばせるよりも、皆で一緒に遊ぶ方がリスクは少ないはずです。
 あなたもどうですか? 無料でお譲りしますよ」

「……借りとは思わんからな」

 藤原は古泉から、二日分のチケットを受け取った。

「ご一緒に、とは言いませんが、あなたも楽しんでください。それでは」

 古泉は藤原に背を向けると、片手を振りながら去っていった。


(おわり)



(あとがき)

 最近ライトノベルをよく読んでいるのですが、まぶらほと涼宮ハルヒの主人公、そして横島は全員高校二年生だったなということに気づき、それを元に少しネタを練った結果がこのSSです。

 元作品はどれも現代が舞台ですので、くっつけてみたら一応ストーリーらしくなりました。
 なお、涼宮ハルヒのキャラは、原作と一部性格が変わっていますが、仕様ということでご理解を願います。



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