夕陽をみつめながら

作:男闘虎之浪漫



「ヨコシマ、そっちへ行ったわ!」
「まかせろ!」

 横島とルシオラは、オフィスビルの除霊に取り組んでいた。
 悪霊が新築のオフィスビルに巣くったためGSに除霊の依頼が来たのだが、悪霊はかなりの強さであり、既に二人のGSを病院送りにしていた。
 そこで美神のもとから独立したばかりの横島除霊事務所に、仕事の依頼がまわってきたのである。

「オラオラ、こっちだ!」

 横島は霊波刀を構え、悪霊の正面に立った。

 グハァァァーー!

 悪霊が奇妙なうめき声をあげつつ、横島めがけて突っ込んでいく。
 横島は悪霊の攻撃を紙一重の差でよけると、すれ違いざまに破魔札を叩きつけた。

 ドーン!

 破魔札が爆発し、爆風を巻き起こす。
 しかし爆風の中から、悪霊が飛び出してきた。

「チッ、破魔札じゃダメか。これでは普通のGSでは、歯がたたなくて当然だな」

 だが横島はひるまなかった。
 右手の霊波刀により強い霊力を込める。

「ウオオォォォ!」

 横島は悪霊に向かって駆けていった。
 悪霊も横島の接近に気づき、攻撃の姿勢をとる。

 グオォォォ!

 悪霊が右腕を伸ばし、横島を引き裂こうとした。
 だが横島はその右腕めがけて、霊波刀を一気に振り下ろす。

 ザシュッ!

 横島は悪霊の右腕ごと、相手の体を真っ二つにした。
 振り返って相手にとどめを刺そうとした時──

「ヨコシマ、危ない!」

 真っ二つになった悪霊が、体が裂かれた状態で背後から横島に襲いかかろうとしていた。
 それを見ていたルシオラが、すかさず霊波砲を撃つ。

 ドン!
 シュウシュウシュウ……

 ルシオラの霊波砲の一撃で、悪霊は完全に消滅した。

「すまん、ルシオラ」
「大丈夫?」
「俺は大丈夫だけど……、あれの修理代の分だけ報酬(ほうしゅう)が差し引かれるな」

 横島が壁を指差すと、そこにはルシオラの霊波砲の余波で大穴が開いていた。

「ごめん……またやっちゃった」
「大丈夫。たぶん赤字にはならないと思うよ。それに危ないところを助けてもらったし」

 普通の悪霊を相手にするには、ルシオラはパワーがありすぎるのである。
 害虫駆除をするのに、バズーカ砲を持ち出すようなものだ。
 そのため通常の除霊仕事では、ルシオラは横島のサポートに徹していた。

「とりあえずここの仕事は終わりだな。今日はあと何件ある?」
「あと一件だけよ」
「よし、じゃ次の現場に向かうか」

 横島とルシオラは、荷物とまとめるとその場を去っていった。





 横島とルシオラは、仕事を終えて事務所に戻った。
 まだ稼ぎもそれほど多くないので、事務所と自宅を兼用している。
 ルシオラは事務所の隣の部屋を借りているが、横島は仕事が終わると寝るまでずっとルシオラの部屋にいるので、半ば同居しているに等しい。
 今日も横島は、遅い夕食をルシオラと一緒に食べていた。

「明日は仕事入ってたっけ?」
「たしか無いはずよ」
「パピリオが帰ってくるのは?」
明後日(あさって)だけど」
「そっか。じゃあ明日は、久しぶりの休日だな」
「どこか連れていってくれる?」
「近場でよければ」
「決定ね♪」
「ごめん。午前中は寝かせて」
「しかたないわね〜〜」


 次の日の午後、横島とルシオラは車で出かけた。

「この車に乗るのも、ずいぶん久しぶりだなー。仕事はたいてい電車で移動しているし」
「たぶん一月ぶりくらいよ」

 横島の愛車は、AE86レビンである。
 年式が古く市場に出回る台数もかなり少なくなっているが、伝手(つて)をたどって入手した。

「でも私、この車好きよ。ちっちゃくって可愛いし」
「時間があったらいろいろいじってみたいんだけど、こう仕事が多くちゃ難しいなー」

 横島はルシオラと軽い会話をかわしながら、海岸に向かって車を走らせた。




 都心から車で3時間、横島は海岸の駐車場に車を停めた。

「いいところね」

 ルシオラがショートヘアを風になびかせながら、海岸線をみつめる。

「ねえ、ここで夕陽は見えるかしら」
「水平線に沈む夕陽が見えるよ。少し時間があるから、それまでその辺を歩こう」

 横島とルシオラは喫茶店でお茶を飲んだあと、二人で浜辺を歩いた。
 平日なので、ほとんど人影がない。
 あたかもプライベート・ビーチのような雰囲気を感じさせた。


 しばらくして、太陽が西に傾き、水平線の下へと沈みはじめた。
 空と海が、夕焼けで真っ赤に染まる。

「きれいね──」

 ルシオラがそっと横島の肩に顔を寄せた。
 横島はそっと手を伸ばすと、ルシオラの肩を軽く抱き寄せる。

「ルシオラ──」

 横島はルシオラに向き合うと、ルシオラの顎に手をあて、そのまま唇と唇を重ね合わせた。




 二人が口づけを終えた時、すでに太陽は水平線の下へと沈んでいた。

「なあ、ルシオラ」
「なに、ヨコシマ?」
「結婚しよう」
「えっ!? 今なんて──」
「結婚しよう、ルシオラ」

 突然のプロポーズに、ルシオラは驚いた。

「で、でも……」
「俺とじゃダメかな」
「ち、違うわ。ヨコシマが嫌いなわけないじゃない。ただちょっと驚いて──」
「返事は急がないよ。ただ今なら言えそうな気がしたから」

(本当は返事はひとつよ。ただ心の準備ができていないから……。少しだけ待っててね、ヨコシマ)


 ルシオラがプロポーズの返事を横島にしたのは、次の日のことであった。


(完)


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