君ともう一度出会えたら
作:湖畔のスナフキン
(18)
》》Lucciola
「ヨコシマに手を出したわね! たとえ仲間でも姉妹でも、絶対に許さない!」
「ムダでちゅ! こいつらに守られている間は、誰も私に手出しできないでちゅよ!」
パピリオの姿が、ふたたび消えてしまった。
「くっ、いったいどこに消えたの!?」
悔しいけれど、パピリオの言うとおりだわ。この結界の中では、私の能力はかなり封じられててしまう。
バシュッ バシュッ
「ちっ、外しまちたか」
「このままじゃ、まずいわ。いったいどうしたら……」
姿を隠しながら攻撃してくるパピリオに苦戦していたとき、地上から美神さんの声が聞こえてきた。
「そうだわ、これよ!」
美神さんのいる方から、文珠が発動時に発生する霊波の余波が伝わってくる。
それと同時に、頬(に水滴が落ちてくるのを感じた。
ポツ ポツ ポチ ザザザーーーッ
「な、何で急に雨が! 一次退避でちゅー。今日は引き分けにしてあげるでちゅよ!」
「遊びじゃないのよ。逃がすもんですか!」
「待って、ルシオラ!」
パピリオを追いかけようとする私を、美神さんが呼びとめた。
「横島クンが、横島クンが──」
「西条さんの方は大丈夫です。呼吸をしています!」
おキヌちゃんが西条さんの様子を確認した。
パピリオの鱗粉(を吸って意識を失っていたが、とりあえず大丈夫そうだ。
「とっさに横島クンがもっていた新しい文珠で雨を降らしたんだけど、そのまえに鱗粉(を吸いすぎたみたい」
「パピリオの鱗粉(攻撃は、麻薬より強力に精神を冒すわ! 脳の回路がオーバーフローを起こしたのかも……」
私は横島の顔に、自分の顔を近づけた。
こうなったらヨコシマの精神にダイブして、直接覚醒(させるしかない。
「呼吸が止まってまだ二分。人工呼吸をすれば、まだ間に合うはず──」
私が霊波を撃ち込むのと、美神さんの顔がヨコシマの顔に近づいたのとがほとんど同時であった。
美神さんに警告をする間もなく、私はヨコシマの精神の中に潜り込んでいった。
ヨコシマの精神世界に入った私は、ヨコシマを覚醒(させるために叫んだ。
「聞こえる、ヨコシマ。目を覚まして!」
「ちょっと、ルシオラ。いったいどういうこと?」
気がつくと、私の横に美神さんがきていた。
どうやら、サイコダイブする時に、近寄り過ぎて巻き込まれたらしい。
「ヨコシマを覚醒(させるために、彼の精神に入り込んだんです。たぶん美神さんが近寄り過ぎたために、
私に巻き込まれたのかと」
「まぁ、いいわ。横島クンを起こせばいいのね」
二人でヨコシマに呼びかけたが、反応がなかった。
「もっと深い領域で呼びかけないと、ダメみたいですね」
私と美神さんは、ヨコシマの精神の更に深い部分へと進んでいった。
「あれは何かしら?」
突然、私たちの前方に、映画館のスクリーンのような巨大な光の幕が二つ現われた。
「たぶん、横島クンの記憶映像ね」
美神さんが、二つのスクリーンがよく見える位置で立ち止まった。
「調べてみる、ルシオラ? それとも無視して先に進もうかしら?」
「少し様子をみましょう」
後に私は、この時の決断を少しだけ後悔することになる。
なぜなら、ヨコシマが背負う運命を、すべて知ってしまったのだから。
向かって右側のスクリーンに映像が映し出された。
「これは──」
「ルシオラたちが、病院にやってきたときのことね」
エネルギー結晶を探して、ある病院を襲ったときの映像であった。
この時に始めてヨコシマと美神さんと出会ったのだが、美神さんが結晶をもっていたことに、まったく気がつかなかった。
このあと、パピリオがヨコシマに首輪を付けて拉致(したところで、映像が終わった。
「いったい、この映像には何の意味が──」
しばらくして、左側のスクリーンにも映像が映し出された。
「ほとんど、同じ映像ね」
「ええ。微妙に動きが違うこともありますが、ほとんど同じ流れになってます」
やがて映像は、逆天号の中のシーンに切り替わった。
「こうやってみると、けっこう横島クンに対して、ひどい扱いをしているのね。まぁ、私も人のことは言えないけれど」
「……」
あらためて見直すと、本当にひどい扱いをしていた。
あの頃の私たちは、ヨコシマのことを意思のないハニワ兵と同じ様に扱っていたから。
私の胸が、チクチクと痛んだ。
しばらくの間、二つのスクリーンの映像はほぼ同じ内容であった。
だがやがて、決定的に異なるシーンが映し出された。
「えっ!? この場面は覚えがないわ……」
その場面は、パピリオがヨコシマを連れて、テレビ局を襲ったときのものであった。
私が作った亀の化け物を、美神隊長が手にした長い槍で倒していた。
「たしかこの時は、横島クンが私たちに逃げろと言って……」
しばらくして、左側のスクリーンに映像が映し出された。
その場面では、ヨコシマが亀の化け物と戦っていた。
たしかこの亀には、五千マイトほどの霊力をこめたはずだったけど──
「そんな! 私が竜の牙とニーベルンゲンの指輪で強化しても、全然歯がたたなかったのに──」
スクリーンの中のヨコシマは、あっさりと敵を片付けてしまった。
そうすると、今のヨコシマの実力は、霊力に換算すると五千マイト以上ってことになる。
合体もしないうちから、それほどの実力をもっていたなんて……
次は別荘のシーンだった。
私とベスパが、ヨコシマのことで口論となり、戦いをはじめた。
確かにベスパを電撃で麻痺させはしたけど、口論もしていないし、激しい戦いもしていない。
『ヤレば、いいじゃないのよ! お……女が抱いてって言ってんのよ。この意気地なし!』
『意気地がどーとかゆー問題か! 俺だってヤレるもんなら、そらもー……』
『……話を聞いていたのね』
『お、俺は確かにスパイだよ。今夜もその、はっきり言ってオイシイと思ってたよ。
でもよ……死んでもいいくらい俺が好きなんて……、一晩と引き換えに命を捨てるなんて……
そんな女、抱けるかよッ! 俺にそんな値打ちなんかねぇよ!』
『ヨコシマ……』
『は、恥かかせて悪いとは思うけどさ……、でも約束する。アシュタロスは、俺が倒す!』
「あんたたち、こんな会話をしていたの」
私は黙って、首を横に振った。本当に覚えがない。
「でもこっちの横島クンの方が、彼らしい感じがするわ。今の横島クンも悪くないけど」
やがて左側のスクリーンに映像が切り替わった。
こちらの映像には覚えがあった。
ヨコシマと戦っていたベスパを麻痺させたあと、私とヨコシマは別荘から逃げ出していた。
東京に着いたヨコシマは、まっすぐドクター・カオスの部屋に駆け込み、そのあと夜を徹してウィルス除去の手術が行われた。
「横島クンは隠れてこんなことをしていたのね。
確かにカオスを頼って正解だったけど、彼にしては手際がよすぎる気がする……」
私は昔のヨコシマのことは知らないけれど、逆天号にいた頃のヨコシマと今のヨコシマでは、ずいぶん変わっていると思う。
逆天号にいた頃は、無理に自分を抑えていたんだろうか? それとも私たちに怪しまれないように、ずっと演技を続けていたのかもしれない。
その先の流れは、右のスクリーンと左のスクリーンでまったく異なっていた。
右側のスクリーンでは、一人でGメンに戻っていた横島が、必死になって自分を鍛えていた。
やがて場面が南極へと変わり、アシュ様との決戦に臨んだ。
右側のスクリーンの中にいた私は消滅することを覚悟の上で、ヨコシマを助けるためにアシュ様の目の前で寝返った。
自分には覚えがないが、もしその場面を実際に体験していたら、間違いなく同じ行動をとっていたであろう。
そのことだけは、確信できた。
私が体験した時と同様、核ミサイルがアシュ様の基地に飛来してきたことろで右側のスクリーンの映像が終わり、左側のスクリーンに切り替わった。
ヨコシマが宇宙のタマゴの中に飛び込まないなど、一部で違うことをしているが、ほぼ同じ流れとなっていた。
先ほどと同様、美神さんとの合体攻撃に失敗したあと、ヨコシマがアシュ様の能力をコピーして戦う。
『横島クン! その作戦は私もママも思いついたけれど、放棄したのよ。
相手の状態をシミュレートしているから、相手に与えたダメージがそのまま自分に返ってきてしまうわ!』
『つまり攻撃すれば自分もダメージを。そして受けた攻撃は──そのまま、君のダメージとなるのさ!』
『どうかな、まだ勝負は終わってないぜ。この一発を受けても同じセリフが言えるか、聞いてみたいもんだな』
『!!』
ズドドドドーーーン!
『貴様!』
『さすがだな、気がついたか。一発であんたを倒せば、文珠の変身が解けるからダメージは返ってこない。
くたばるのは、あんだだけって寸法さ』
二つの映像を見比べて、はじめて気がついた。
左側の映像のヨコシマは『模』の文珠の弱点を知っており、その上で弱点を克服する方法を編み出していたのだ。
「……ひょっとしたら……いえ、でもそれしか考えられない」
美神さんも、それに気がついたようだ。私の視線にも気づかず、食い入るように映像を眺めていた。
左側のスクリーンが記憶を失う直前までのシーンを映したところで、映像が終わった。
辺りが薄い暗闇の中に包まれる。
「いま見た映像には、どういう意味があるのかしら?」
「ルシオラ、聞いて。今のところ推論に過ぎないけれど、横島クンはひょっとしたら……」
だが美神さんとの会話は、そこで途切れた。
右側のスクリーンに、新たな映像が映し出されたからである。
「うそっ! まさか、そんな私が……」
「ヨコシマ! いったいあなたは何を見てきたの!?」
その先のシーンは、私にも美神さんにも全く見覚えがなかった。
なぜならば、その先のシーンは、明らかに未来の映像であったからである。
私たち二人は、その先の展開に驚愕(せざるを得なかった。
私たち二人と、そしてヨコシマに振りかかる運命は、私たちの想像をはるかに越えた過酷(な内容であった。
【あとがき】
今まで、ずっと横島視点の一人称で書いてきましたが、とうとうそれでは追いつかなくなったため、
複数の人物の視点を通したマルチ一人称で書くことにしました。
今回は、ルシオラ視点の話となっています。
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