君ともう一度出会えたら

作:湖畔のスナフキン

(外伝01.グレート・マザー再襲来。そして……[中])




 二日酔いで横になっていた俺は、昼近くになってようやく布団から出てきた。
 お袋がお(かゆ)を作ってくれたので、それを昼食にする。

「どう、少しは元気になった?」

「まだ少し、頭が痛いけど」

「しかし、忠夫の二日酔いの世話をするなんて、思ってもみなかったね」

「そういや、何でお袋は日本に来たんだ? またオヤジが、浮気でもしたのか?」

 俺はオヤジの浮気疑惑が原因で、突然日本にやってきた前回の出来事を思い出した。
 前回は、この時期にお袋が日本に来ることはなかったので、かなり気になっている。

「少し前にあった、日本中を騒がせたオカルト事件のことよ。
 忠夫もずいぶん関わってたみたいだから、心配していたけど……」

「アシュタロスの事件のことか?」

 一時期はヤツらの手先になって、世間の悪評を一身に受けていたから、まあ心配されてもしかたないか。

「あの事件は、美神さんたちGSの活躍によって、事件を解決したことになっているみたいね」

「マスコミでは、そう言ってるよな」

 未成年の俺がスパイをしていたり、アシュタロス陣営にいた頃にテレビでだいぶ顔を売ってしまっていたから、そのまま発表してしまうといろいろ問題が起こると、上の方では考えていたようだ。
 マスコミには政府とオカルトGメンによって、情報操作された内容が発表されていた。

「でも、真相は少し違ったようね。関係者から、ひととおり話は聞いたわ」

「……え?」

「公安とオカルトGメンの担当者がナルニアに来て、忠夫が何をしたかお父さんと私に説明して
 くれたのよ。
 話を聞いてみたら、マスコミで聞いた話とずいぶん違っていたから、ビックリしたわ。
 それで、根性なしの忠夫に何があったのか気になって、私だけ日本に来たってわけ」

 お袋は真剣な眼差しで、俺の目を見つめていた。

「どこまで、話を聞いてるんだ?」

 俺はお袋がどこまで知っているか、軽く探りを入れてみた。

「そうね。忠夫が敵陣営に潜り込んでスパイをしたとか、最後の決戦で、忠夫が敵の親玉と直接
 戦ったとか、そんなことよ」

 聞いたのは事実関係だけかな。さすがに逆行のことまでは、知らないみたいだ。
 とりあえず、機密事項に触れるようなことは、話さない方がいいだろう。




 昼過ぎになって俺は、お袋のお供で買い物に出かけた。
 デパートを何軒かはしごしたあと、お袋と一緒に喫茶店に入る。

「しかし、忠夫も本当に変わったわね」

「そうかな?」

 俺は注文したアイスコーヒーを飲みながら、答えた。

「前に来たときから比べると、一皮()けた感じがするわ」

「まあ、いろいろとあったから……」

 俺はお袋から視線を外すと、デパートの外の風景を眺めた。
 実際、本当に多くのことがあった。
 前回と今回の戦い、そして過去に戻るまでの五年間の生活など。
 苦しかったことや(つら)かったことなど、様々な思い出が走馬灯のように俺の脳裏をよぎっていった。

「ところで、忠夫」

「何だ?」

「アンタ、本当に美神さんとは何ともないの?」

 お袋はいぶかしげな表情で、俺の顔を見ていた。

「今朝も言っただろ。まだ、手は出してないって」

「それなら、もう一人の娘とは? 名前は、ルシオラさんだったかしら?」

 ブッ!

 俺は思わず、飲んでいたアイスコーヒーを噴き出しそうになってしまった。

「な、な、な、何でそこでルシオラが!」

「言ったでしょ。忠夫のことは、関係者から話を聞いているって」

 お袋はカップを手に持つと、コーヒーを一口飲んだ。

「で、そのルシオラさんとは、今どうなってるの?」

「ルシオラは、前は美神さんの事務所に住んでたけど、今は妙神山ってところに移ったんだ」

「別れたってこと?」

 俺自身は、ルシオラと別れたという意識はあまりないけど、ルシオラと離れて暮らしている以上、(はた)から見たらそうなるのかもしれない。
 実際、ルシオラが妙神山に移ったのも、自分で身を引いたという意味もあると思う。

「まだ、引きずっているみたいね」

 お袋が意味ありげな視線で、俺の目を(のぞ)き込んだ。

「ほっといてくれ」

 俺はすねるようにして、顔を横を向ける。

「ま、あえて言うなら両方なんて、甘っちょろい考えからは卒業したみたいね」

「……」

 昔のことを思い出した俺は、お袋に何も言い返すことができなかった。




》》Reiko


「はあー、もう疲れたッス」

 夕方、事務所に出勤してきた横島クンが、グタッとした様子でソファに座り込んでいた。

「横島クンのお母さん、今回は何の用事てきたの?」

「何だか知らないッスけど、公安やGメンの役人がナルニアに出かけて、オヤジとお袋に事件の
 説明をしたらしいんですよ。
 それで、お袋がビックリして、俺の様子を見にきたってわけで」

「“前回”は無かったの?」

「ええ。“今回”が始めてです」

 前回と違って、今回は事件の大半が横島クンの活躍で解決したようなものだ。
 日本政府やGメンが横島クンを見る目も、前とはずいぶん違っているのかもしれない。

「どこまで話を聞いたのかしら?」

「とりあえず、事件のいきさつはひととおり聞いたみたいですね」

「機密事項は? 例えば、横島クンの逆行のこととか」

「さすがに、そこまでは聞いてないみたいです」

 横島クンの秘密をどこまで知っているかで、こちらの対応も変わってくる。
 とりあえず横島クンが自分で話すまでは、この件には触れない方がいいだろう。

「ねえ、横島クン」

「どうしたんですか、美神さん?」

「横島クンのお母さん、私のことなんて言ってた?」

 私はあまり人間関係には気を使わない方だが、それでも横島クンのお母さんは苦手な部類に入る。
 前に成田空港のロビーで修羅場を演じたこともあるし、今朝も横島クンの部屋で鉢合わせしてしまい、何ともばつの悪い思いをしてしまった。

「特に美神さんのことは、何とも言わなかったですけど」

「そう」

 早朝、息子の部屋から女が顔を出したとあれば、普通の母親であれば文句や難癖の一つや二つはつけてくるだろう。
 うちのママとは違った意味で、横島クンのお母さんに巨大な壁のようなものが感じられた。

「ところで、横島クンのお母さんは、いつナルニアに帰るの?」

「さあ? いつまでこっちにいるのか、全然聞いてなくて……」

 横島クンが話している途中に、人工幽霊壱号が会話に割り込んできた。

「マスター、お客様が見えていますが」

「誰? この時間にアポイントは入れてないはずだけど?」

「女性の方です。横島百合子と名乗っています」




 私は大急ぎで玄関に向かうと、横島クンのお母さんを事務所の中に案内した。
 おキヌちゃんがまだ戻ってきていないので、自分でお茶を入れて差し出す。

「すみませんね。連絡も入れずに、いきなり押しかけて」

「いえ、ちょうど時間も空いていましたので」

 近い将来、私の義理の母親になるかもしれないなどという思いが、フッと浮かんでくる。
 今朝の失態を少しでも取り戻そうと、私は念入りに応対をした。

「来るなら来るって、一言いってくれればいいのに……」

 私の隣に座っていた横島クンが、ぶつくさとつぶやいていた。

「忠夫、悪いけど席を外してくれない?」

「な、何で?」

「ちょっと、美神さんと二人で話したいことがあるから」

 横島クンが席を外すと、横島クンのお母さんが話を続けた。

「美神さん。忠夫のことで、あなたとゆっくり話がしたいんだけど。
 できれば、今晩時間が取れないかしら?」

「それは大丈夫ですが……」

「それなら、一緒に食事でもどう? いいフランス料理の店を知っているわ」

 横島クンのお母さんは携帯を取り出すと、その場で店の予約を入れる。
 現地で待ち合わせる約束をすると、横島クンのお母さんは事務所を出て行った。



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