竜の騎士

作:男闘虎之浪漫

第一章 『再会』 −8−




 ルシオラはデミアンの一撃をかわすと、後方に飛び下がり、デミアンとの間合いをとった。
 ルシオラが相手の顔を見つめると、強い殺気が感じられた。

(どうやら本気みたいね……)

 再度、デミアンが攻撃をしかけてきた。
 ルシオラは、その攻撃をサイドにステップしてかわす。

「いったい誰なの、こんな命令を出したのは!」

 問い詰めるルシオラの声に、デミアンがニヤリと笑う。

「ボスさ」

「なんですって!」

「ボスだよ。アシュタロト様さ」

「そんな……」

「本当さ。お前は切り捨てられたんだよ」

 デミアンは不気味な笑顔を浮かべる。クックックという引きつった声も聞こえてきた。

「そらっ!!!」

 デミアンは槍のような形に変化させた腕を伸ばし、ルシオラを突いてきた。
 ルシオラは攻撃をかわそうとしたが、よけきれず左腕をざっくりと切られてしまう。

動揺(どうよう)しているな……動きが遅いぞ!」

 ルシオラは、切られた左腕の傷を右手で押さえた。
 そこにデミアンが、連続して攻撃を加えてくる。
 しかし、(とが)った槍の先端がルシオラに突き刺さった瞬間、その姿がかき消えた。

「幻術か!」

 デミアンが背後を振り返ると、空中にルシオラの姿があった。
 ルシオラは、すかさず霊波砲を放つ。
 霊波砲は狙いたがわず命中し、デミアンの頭に大穴を開ける。
 しかし──

「クックック……いいぞ。少しは手向かってもらわないと、面白くないからな」

 デミアンの頭に開いた大穴は、たちまち灰色の肉塊で埋まり、元の姿に戻った。

(うそっ!)

 ルシオラは、心の中で驚きの声をあげる。

「さぁ、闘いはこれからだ!」

 デミアンの背から灰色の肉塊(にくかい)が飛び出すと、たちまち二枚の翼に変化した。

「いくぞ!」

 デミアンは空中に上昇する。そのまま空中戦となった。




 ルシオラを見送ったヨコシマは、そのまま木にもたれかかってボーっとしていた。
 森の香りに女の残り香がかすかに混じり、ヨコシマの周囲を(ただよ)っている。
 その(にお)いをかいでいると、何とも言えない安らぎを感じた。

(また会いたいな……)

 正直にそう思う。
 だが、相手は魔族である。会えるとしたら、戦場でしかありえない。
 たまたま相手を助けてしまったが、本来ならば生命(いのち)を奪うか奪われるかという関係なのだ。
 しかしアイツとは戦いたくない。けれども、戦場でなければ会うことができない。
 明らかに矛盾していた。




 ヨコシマはしばらく考えにふけっていたが、結局、結論は出なかった。
 いつまでも考え込んでいても仕方がない。
 そう思ったヨコシマは、立ちあがって装備を確認した。

 とりあえず、原隊に戻らなければならない。
 しかし、腰に付けていた携帯型通信鬼が無くなっていた。
 皮の紐で結び付けていたが、戦闘中に紐が切れて落としてしまったのだろう。

 ヨコシマは、空を見上げてシュルガを探す。
 しかし、シュルガの姿は見えなかった。
 数時間気を失っていたので、この場所を探すのを止め、別の場所を探しているのかもしれない。

(城まで歩くか……)

 城まで戻れば、遠距離通話が可能な通信鬼があるだろう。
 竜と遠距離心話が可能な心話能力者もいるかもしれない。

 だが次の瞬間、ヨコシマの顔が引き締まった。
 やや遠方で、妖気の高まりを感じる。
 やがてその妖気は二つに分かれ、互いに激しくぶつかり始めた。

(魔族どうしの戦いか?)

 その戦いの気配は、ルシオラが走り去っていった方角から感じられた。

 ヨコシマは二つの文珠を生成し、『飛』『翔』の念を込めて発動させた。
 相手に見つからないよう気配を押さえ、低空で木々の間を飛行する。
 やがて行く手から、木々が倒れる音が聞こえ、砂埃(すなぼこり)が舞い上がるのが見えた。
 かなり激しい戦いのようだ。
 ヨコシマは飛行速度を上げ、先を急いだ。




 ルシオラとデミアンの戦闘が続いていた。

 ルシオラは、相手との距離を取りながら、何度も霊波砲で攻撃した。
 しかし、相手の体のどこを吹き飛ばしても、たちまちその傷が修復してしまう。

「なかなかパワーがあるな。俺の体にこれだけ穴を開けたヤツは久しぶりだ」

 デミアンは、余裕の態度を見せている。
 一方ルシオラは、幾分(あせ)りを感じていた。
 霊波砲の攻撃は、ほとんどダメージを与えていない。
 接触して電撃を放つ攻撃も試してみたが、デミアンに近づくと、体から突起が飛び出て攻撃の邪魔をした。
 一度突起を(つか)んで電撃を流してみたが、効果はなかった。

 ルシオラの息が次第にあがってきた。
 無理もない。昨夜から十分な休息もとらないまま、戦い続けているのだ。
 受けた傷こそヨコシマの文珠で回復しているとはいえ、霊力と体力までは回復していなかった。
 さらに、さきほど左腕に受けた傷口から血が流れ、ルシオラの体力を徐々に奪っていた。

 体力の消耗を減らすため、ルシオラは地上に降りた。
 その後を追うようにして、デミアンも地上に降り立つ。

「だいぶ息があがってきたな……もうおしまいか?」

 勝てそうにない。ルシオラは冷静に判断する。
 だが、逃げるとしても、どこに逃げたらよいのか?
 デミアンの言うとおりだとしたら、魔族の仲間の元に帰ることはできなかった。
 後は……

(ヨコシマ)

 ルシオラの心に、つい先ほど会ったばかりの人間の男の顔が浮かんできた。




「そろそろ、決着(ケリ)をつけさせてもらおうか」

 その言葉を発するやいなや、デミアンの体が縦に真っ二つに裂け、大量の肉塊(にくかい)が飛び出してきた。
 その肉塊(にくかい)は元の体を飲み込んでさらに(ふく)れ上がり、やがて(つばさ)のない竜の形態をとった。
 さらにその背にも肉塊(にくかい)が飛び出て、デミアンの上半身の姿に変化した。

「いくぞ!!!」

 デミアンはその巨体を突進させ、ルシオラに突っ込んだ。
 しかし、ルシオラにぶつかる前に、側面から放たれた霊波砲がその巨体を(はじ)き飛ばした。

「危なかったな・・・」

 霊波砲を撃ったのは、ヨコシマであった。

「ヨコシマ!」

 ルシオラが声をあげて、ヨコシマの方に()け出していく。

「フン、やはり人間とつるんでいたか」

 デミアンは態勢を立て直し、ヨコシマとルシオラに向かい合った。

「逃げて!ヨコシマ!」

「女の子を残して逃げられないよ」

 ヨコシマは、ルシオラをかばうようにして、一歩前へ()み出る。

「お前が文珠使いか?」

「だいぶ有名らしいな俺は。最近まで知らなかったが」

「ルシオラを消すついだ。ヨコシマ、お前も始末しておこう」



【後書き】

 対デミアン戦です。
 原作では、横島の文珠であっさりやられるデミアンですが、こいつはかなり強い部類に入ると思います。
 カプセルという致命的な弱点があるにせよ、通常の攻撃が一切効かないのですから。
 デミアンには中ボスとして、もう少し頑張ってもらいます。(笑)


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