フェダーイン・横島

作:NK

第17話




「ふー。再び他人の念法修行をみる事になるなんて思わんかったなー」

 GS試験から3週間程経ったある日、横島は妙神山の一角で溜息を吐いていた。
 彼としては、来るべきアシュタロスとの戦いに備え、少しでも自分の能力を向上させたい。
 あの戦いで勝利を得るには、どうしても横島の神・魔・共鳴能力をあと数倍パワーアップさせなければならない。
 それが非常に困難な事であると理解している横島だったが、後で後悔しないためには修行するしかないと考えていた。
 現時点での横島の能力は、

 基礎霊力:150マイト
 チャクラ全開時:1,050マイト
 神・魔・共鳴(ハイパー・モード)時:最大9,450マイト(9倍)
 念法による飛竜での霊力増幅:通常時(チャクラ全開を含む);3倍(3,150マイト),ハイパーモード時;1.5倍(14,175マイト)

 といったところである。
 これを最低でも、ハイパー・モード時:16,800マイト(16倍)までには持っていきたいと考えている。
 まあ、これでもアシュタロスと正面切って闘うのは不可能だ。
 アシュタロスはそれ程強い。

 だからこそ修行するしかないと思っていた。
 だが、あのGS資格試験の翌日から、彼は2人の弟子を取る事となったのだ。
 一人は彼と2回戦で闘った九能市氷雅、もう一人はあの後横島の部屋へやって来て強くなりたいと願った伊達雪之丞。
 本来メドーサの配下だった雪之丞はお尋ね者なのだが、将来を考えて横島と小竜姫は念法の修業を受ける事を許した。
 二人とも、平行未来世界の横島(この当時)と違って基礎はしっかりできているため、現在は霊気の体の中での流れを知覚することと、チャクラを自分の意志で廻すための基礎トレーニングをしている。
 無論、身体能力のトレーニングを行っていることは言うまでもない。
 具体的には彼がこの妙神山に来てやったように、霊力を抑制するリストバンド(竜神の武具の一種。呪で霊力を抑制させている)を手渡し、座禅を組ませて体内の霊気をコントロールする修行である。

「そうだ。今二人の体内の霊気は制限されている。少ないからこそ霊気全体を掴む事がし易いんだ。
 それをしっかりと理解したら、流れをしっかりとイメージできるようにするんだ」

 横島は簡単そうに言っているが、実際にはそんなに簡単な事ではない。
 霊能者といえども、普段自分が使っている霊能力の基である霊気という存在やその流れなど理解して使っているわけではない。
 肉体がある存在(つまり人間)を鍛える事を目的とした念法は、魔術や神通力というより仙術に近い。
 だから本来はかなり長期間の修行を前提にしている。
 それ故に修得して使いこなす人間がほとんど皆無なのだ。
 小竜姫とて、横島の中の平行未来から来た小竜姫の意識とシンクロして初めて、本当の基礎から念法を人に教える事ができるレベルまで理解したのだ。
 まあ、それ以前にもある程度は知っていたために、横島の修行では指導する事もできたのだが……それは横島が全てを知っていたからほとんど手が掛からなかったおかげでもある。
 したがって小竜姫は、九能市や雪之丞の修行では横島が師匠となる方がいいと判断したのだ。

「横島様…何となく存在を感じられるのですが、今まで認識した事が無いモノなのでイメージ
 できませんわ」

「うーん……俺もよくわからねーな…。体内にエネルギーみたいなモンは感じられるけどな」

 目を瞑ったままの姿勢で首を捻る九能市と雪之丞。

「うーん。コイツをしっかりと認識できないと、チャクラを自分の意志で廻す事はできないんだけどなー」

 横島も難しい事などわかっているが、念法という存在に出会ったときには無意識にそれらを把握できていたので、とっかかりがわからないのだ。
 暫く考え込んでいた横島だったが、ふと何かを思いついたのか顔を上げる。

「反則技に近いけど……これならイメージを掴めるかもしれないな」

 うんうんと頷きながら掌を見詰める横島。
 するとその手に文珠が現れる。


「横島様! それは何ですの?」

「俺も初めて見るな。そりゃ何だ?」

 眼を開けていた二人が興味深そうに掌の球体を見詰める。

「ああ、二人には話してなかったっけ? これは俺の能力の一つで文珠っていうんだ。俺の霊力を
 凝集してキーワードで一定の特性を持たせて発動させる技だ。この段階ではなるべく見せない
 ようにしてるんだが…」

 そう言いながら新たに一つ文珠を作り出す。

「これは念を一文字としてしか込められない単文珠だけど、実際に理解するには十分だろう」

 そう言って何も文字が浮かんでいない文珠を見せる。

「「へえ…これが……」」

 眺めている二人の前で、その中に『護』の文字が浮かび上がる。

「ほら、念を込めると文字が浮き出るだろう? これで使えるようになったのさ。後は心で強く発動
 させたいと思えば霊力が方向性を持って発動される」

 そう言って九能市に文珠を手渡す。

「雪之丞、氷雅さんに最大レベルの霊波砲を撃ってくれ。手加減無しでな」

 気軽に言う横島に驚いた表情の雪之丞。
 彼の霊波砲はかなりの威力で、まともにくらえば大怪我をする。

「大丈夫だって。俺も一緒にいるから」

 その言葉に頷いた雪之丞は離れると霊波砲を放つ。

「きゃっ!?」

 思わず目を瞑った九能市だったが、強力な防御結界が発生し霊波砲を弾き飛ばした。
 そして役割を終えた文珠は消えていく。
 その光景を見た雪之丞と九能市は呆然とした表情で横島を見詰める。

「今のが文珠の使い方だよ。理解できた?」

 何でもない事のように言う横島に頭痛がしてくる二人。

「すげーな……。試験の時って相当手を抜いていたんじゃねーのか?」

 雪之丞がジト眼で睨む。

「ははは……あれはメドーサの計画を潰すためと、資格が手に入ればよかったからな。必要な分しか
 能力も使わなかった」

 頭を掻きながら笑う横島に、一体こいつの能力はどこまでなんだと呟く雪之丞。

「それで…文珠を使って何をやるんですの?」

 すでに頭を切り換えた九能市が尋ねる。

「ああ、そうそう。こうするんだよ」

 そう言って先に出した文珠に念を込める横島。
 そこには『伝達』、『知覚』の文字が浮かび上がっていた。

「さて、雪之丞から試してみるか。さっきと同じように霊気を感じてみるんだ」

 その言葉に座禅を組んで自分の内なる霊力の源を感じようとする。

「どうだ、漠然とは感じられるか?」

「ああ、ここまではできるんだが…」

 そう言う雪之丞の額に二つの文珠を押し付ける。
 すると文珠が光り始め、金属音と共に何かが雪之丞へと流れ込んだ。

「どうだ? 俺が感じているイメージをお前に送り込んでみたんだが……霊気の存在をしっかりと知覚することができたか?」

「あ…ああ……これが俺の体の中にある霊気か…?」

「そうだ。それがお前の霊体によって生み出される霊気だ」

 文珠によって横島も雪之丞と同じイメージを思い描く事ができる。

「すげーな……。まるで温泉で湯気が湧き上がってるみてーだな。霊体が温泉で霊気が湯気って
 ことか……」

「そうだな。お前がイメージできているのが、お前の体内の霊気だ。それじゃ、その流れがどういう
 ものか見せるからしっかりとイメージできるようにしろよ!」

 そう言って横島は雪之丞に霊気が身体の霊的中枢、チャクラの間を流れているイメージを伝える。

「へえ……こうやって霊気が練り上げられて霊力となるんだな」

「ああ、普通でもチャクラを使っているが、特に意識してる訳でもなければ全力で廻しているワケでも
 ない。念法はそれを自分の意識で自由に廻し、武具を通して練り上げ増幅する事で攻撃や防御に
 自分の基礎霊力を超えた力を発揮するんだ」

 そう言って自分のチャクラを廻して霊気を練り上げる姿を伝える。

「これが横島のやっていることなのか?」

「そうだ。こうやって俺は基礎霊力の7倍まで霊力を上げる事ができる。飛竜を使えばさらに最大3倍
 までの霊力を攻撃や防御に使えるんだ。まあ雪之丞の場合は魔装術が基本だから、武具を使って
 の霊力増幅はあまり関係ない。どっちかっていうと魔装術を使った時の安定性とか持続時間を向上
 させるための修行になると思うぞ」

 その後も、ふーんとかへーとか言って雪之丞は霊気の流れとチャクラによる霊力の練り上げを理解していった。


「さて、次は氷雅さんの番だけど……氷雅さんの場合、俺と同じ霊刀を使う戦い方がメインになる。
 だから俺と同じような方向で修行することになる。まあ取り敢えずチャクラを廻せるようにならないと
 次のステップにはいけないんだけど、武具を通して霊力を増幅するイメージまで見せるから混乱
 しないようにね」

 そう言って九能市の額に文珠を押し付ける横島。
 雪之丞はすでに見せられたイメージを元に先程までの修行に戻っている。

「こ…これが私の体の中にある霊気の流れですの……?」

「そうだ。これがチャクラによって一定の方向を持った流れに整流され、練り上げられる事によって
 霊能力となるんだ。霊力って言うのは自分の霊体が発生させた霊気を、いかに多く一定の方向性を
 持った流れにして練り上げ、エネルギーとして変換できるかということで強弱が決まる」

 そう言って先程の雪之丞と同じように、チャクラの間を流れている霊気を特定のチャクラで加速し集束することで練り上げていくイメージを伝えていく。

「俺だって普通の人だって霊体が作り出す霊気の量は大して変わらない。霊能力者ってのは、今
 見せたイメージを無意識のうちにできる人間のことさ。だから俺は霊力を使い果たしても、残った
 僅かな霊気をより強固に練り上げて技を出したり、疲労を回復させたりできるようになったんだ」

 そして飛竜に自分の身体で練り上げた霊力を流し込み、それを一定の枠で封じ込めるイメージを伝える。

「これは基本的に文珠の作り方と同じなんだ。だから俺には感覚的に馴染みがあるけど、他の人には
 無理かもしれない」

 そう言って全てのイメージを伝え終わった横島は、文珠の発動を停止させる。
 そして今見た事を参考に再び修行を再開した二人を邪魔しないようにその場を外した。


 パチパチパチ……

 少し歩くと小竜姫が佇み手を叩いている。

「ど、どーしたんスか、小竜姫様?」

 一瞬、九能市に何にもしていないよな、と確かめるあたりが横島らしい。

「雪之丞さんと九能市さんへの指導を影で見ていたのですが、なかなか素晴らしい先生振りでしたよ。
 念法を修行する上で最初の難関である霊気の流れとチャクラでの練り上げを、文珠を使って指導
 するとは考えつきませんでした。横島さんに任せて正解でしたね」

 穏やかな表情で話す小竜姫。

「はっはっはっ……俺って言葉で色々教えられる程学がないっスからね。でも自分で辿ってきた道なら
 何とか人にも話せますから」

「美神さんの方は相変わらず進展はありません。私の教え方が悪いのかもしれませんね……」

 あれから何度か尋ねてきた美神のことは小竜姫が指導しているのだが、何しろこの最初の段階で殆どの人間が挫折していく念法だけに、美神もイメージが掴めないようだった。
 そのため、小竜姫は自分の指導力の無さを悔しく思っていたのだ。

「そ、そんな事はないっスよ!! 俺は小竜姫様の指導で最終段階まで行ったんスから!」

 そう言って小竜姫を慰める横島。

『あら、ヨコシマは未来の記憶もあったし、霊体の半分が何をすればいいか熟知していたから一人で
 修行しても時間の問題だけで、必ず最終段階まで到達したはずよ!』

「お、おい…ルシオラ! そんな言い方は……」

 いきなり話しかけてきたルシオラの意識に、小竜姫がさらに落ち込むのではないかと思って窘めようとする。

「いいんですよ横島さん。それはルシオラさんの言うとおりですから」

 GS資格取得試験では人前と言う事もあり、ほとんど出る機会がなかったルシオラの意識はあの後しばらく拗ねていた。
 ようやく機嫌を直していたのだが、ここのところ横島が二人の修行に時間を取られるようになったので、再び機嫌がよろしくない。

『ふふ……冗談よ。ヨコシマは大した物だわ。私だって念法のイメージなんて他人にどうやって
 伝えればいいのかわからなかったモノ。それを文珠を使ったとはいえ、あれほどわかりやすく伝える
 事ができるなんてね。さすが、私の旦那様!』

「そうですね。横島さんは案外先生なんて向いているのかもしれません。何しろ私の旦那様ですから」

『フフフフ………』

「ふふふふ………」

 そう言って爽やかそうに笑い合う二人の姿に、何故か冷や汗をかいている横島。

「あ…あの…二人とも……なんか怖いんですけど……」

『やーねー! 気のせいよヨコシマ!』

「そうですよ。私達は何でもないですから」

 自分の霊体の中でも同じような感触を感じている横島としてはかなり辛いモノがあるが、それを口にしないだけの成長というものは彼もしている。

「そ、それで……小竜姫様。何か他にも用があったんじゃないですか?」

 とにかく話題を変えたい横島が、先程わざわざ二人の修行を見に来た小竜姫が何か用事があったのでは、と思い尋ねる。

「あっ! そうでした。次に美神さんを狙ってくる魔族のことなんですけど……」

 小竜姫が表情を真面目なモノに変えて話し始める。

『確か……ハーピーだったっけ?』

「ああ、美神さんの母親が時間跳躍をして子供の頃の美神さんを連れてくる。過去と現在で美神さん
 を狙う魔族の殺し屋・ハーピーが今度の相手の筈だ」

「フェザー・ブレッドが武器でしたね? それと飛行能力ですか…。人間が相手をするにはちょっと
 厄介な相手ですね」

「そうスね。確かあの時も美神さん一人じゃ倒せなかった。再び時間跳躍してきた母親・美智恵さんが
 加勢して漸く仕留めましたから」

 当時の横島やおキヌでは殆ど戦力外なので仕方がない。

『でも今度はヨコシマもいるし、敵の能力もわかってるから後れを取る事はないと思うけど……』

「そう思うけど、万が一ってこともある。だから美神さんをもう少し強化しておきたいって事ですよね、
 小竜姫様?」

「ええ、そう思ってどうやって指導するのがいいのか相談しようと思ったのですが、今のを見て考えが
 変わりました。美神さんの修行も横島さんに見て貰いましょう」

「ええっ!?」

『ちょっと小竜姫さん! ヨコシマと美神さんを一緒にしたら、彼女ますますヨコシマに惹かれちゃう
 じゃない!』

「私もその点を考慮しなかったわけじゃありません。だから当然、私も一緒に指導します。あくまで
 今回のイメージを掴むところの修行に関してのみです」

『なーんだ……。驚かさないでよ、小竜姫さん』

 ホッとしたように言うルシオラ。

「ふふふ……。私もこれ以上横島さんを好きになる人を増やしたくありませんから。ルシオラさん
 だってそうでしょう?」

『それはその通りね』

「『だからしっかり私達が見張ってないと!』」

「あのー俺の意見は…?」

「『あら、何か意見があるの(ですか)?』」

「いえ……ございません……」

 さすがの横島も、ルシオラと小竜姫の最強タッグには勝ち目など全くない!

『まあ…ハーピーの事件までは大きな厄介事は無いはずよ。少しゆっくりしましょう』

「賛成です。当面は美神さん、雪之丞さん、九能市さんの修行ぐらいですね」

 ここしばらくの間に彼等の身の回りで起きた出来事から考えれば、今はとても穏やかな日々と言える。
 後日必ず訪れる大きな戦いの合間だが、平和で穏やかな日々を楽しみたいと思う3人であった。






 横島が雪之丞と九能市にイメージを伝えて1週間後。
 ついに二人とも自分の霊気全体を掴む事を可能とし、霊気の流れをしっかりと自分なりにイメージできるようになった。
 これからは霊気の流れに方向性を持たせ、下から順に完全に己の制御の基にチャクラで霊気の流れを練り上げるための修行に入る。
 横島と小竜姫の見立てでは、おそらく1ヶ月ぐらいで第1チャクラを完全に廻せるようになるだろう。

 第1チャクラを自由に廻せるようになれば、基礎霊力以上にはできないが自分の霊力を安定して使えるようになり、さらに霊力を使い果たしても残存する少量の霊力を練り上げて回復させる事が可能となる。
 その後はそれぞれのチャクラを自分の意志で自由に廻せるようになるまで、各々半年ぐらいずつかかるだろう。

 瞑想状態で自由に廻す事はもっと早くできるようになるが、一度精神集中をして切っ掛けを与えれば後は無意識で全開状態を維持できるようにならなければ、実戦で役になどたたないのだ。
 身体能力を鍛える訓練を終えた雪之丞と九能市がチャクラを操ろうと四苦八苦していると、聞き覚えのある声が聞こえた。

「小竜姫様、あれから第2チャクラは戦闘時でも全開状態で廻せるまでになったワケ!これで大抵の
 事ではやられるような事はないワケ。感謝しているわ」

「ちょっとエミ! それってまだチャクラを廻す事もできない私に対する嫌みかしら……?」

 今日はここのところ仕事が立て込み、なかなか修行にこれなかった美神がやって来ると小竜姫から聞いていた横島。
 だが何故かエミまで付いて来たようだ。

『ひと騒動起こらなきゃいいけどなぁ……』

 それが横島と雪之丞が同時に思った事だった。


「「久しぶりね、横島君!」」

 エミと美神が同時に声をかけてくる。

「やあ、お久しぶりっス」

 軽く手を上げて返答する横島。

「商売繁盛みたいですね。ここのところあまり姿を見かけませんでしたよ?」

「ちょっと立て込んじゃってね。それより…横島君の弟子2人はどうなの?」

「ああ…それなりに…」

「ふっ…美神の旦那。念法ってのは難しいぜ」

「そうですわ。私達も漸く霊気の流れというモノを掴み、チャクラで霊気を練り上げるという事を
 イメージできるようになったレベルですわ」

 久しぶりに会ったせいか、横島が説明するより早く雪之丞と九能市が答える。
 それを聞いて横島と小竜姫が引きつった表情をしているが、事情を知らない二人には通じない。

「ちょっと、小竜姫様! これはどういう事よ!?」

 美神は自分がそこまで行っていないのに、後輩二人に抜かされたような気がして声を大きくする。

「ふう…美神さん。この二人は1日中修行していて、毎日鍛錬を積み重ねています。先に進んでいる
 のは当たり前でしょう…」

「そっ…それはそうだけど……」

「令子! 自分の才能の無さを人のせいにするのは止めるワケ! 私は同じ指導でできるように
 なったワケ!」

 からかうような口調のエミに美神の顔が引きつる。

「まーまー、二人とも喧嘩は止めてくれよ。俺達だって横島が文珠を使って自分のイメージを伝達して
 くれなきゃわからなかったんだからよ」

「そうですわ。全て横島さんのおかげですわ」

 またまた余計な事を言う二人。
 今度は横島だけが渋い顔をしており、小竜姫は何故か微笑んでいる。

「へー! 横島君…それって私にもやってくれるわよね?」

 ニッコリと笑っているが、美神の表情には有無を言わさぬ迫力があった。

「大丈夫ですよ美神さん。そのために今日はここに連れてきたのですから。
 では横島さん、頼みますよ」

 そう言って下駄を預ける小竜姫。

「はぁー。わかりましたよ小竜姫様。じゃあ早速始めましょうか? 雪之丞と氷雅さんはそのまま
 続けていて。小竜姫様、二人の事を頼みます」

 そう言って美神を少し離れた所に連れて行く。

「あれっ? 何でエミさんも来るんです?」

「お邪魔じゃなければ私も受けてみたいワケ」

「まあいいっスけどね。じゃあ美神さんから始めましょうか?」

 そう言って前回同様文珠を作り出す横島。

「へぇ…文珠を使うワケ?」

「ええ、念法で一番厄介なのは体内の霊気を知覚してその流れを掴む事です。元々知らないモノを
 イメージすることはできないでしょう? エミさんの時もそれで最初苦労したじゃないですか……」

 後半はその時の事を思い出して苦笑する横島。

「確かにその通りなワケ! あれは閃きというか勘みたいなものだから…私の場合は、霊体撃滅波を
 撃つための呪術的な踊りで霊力を溜めるのと同じ感覚だとイメージが湧いたからできたワケ」

「それって普通はできないんですよ。だから念法が忘れられた武術になったんです。自分のイメージを
 他人に正確に伝えるのは難しいですからね」

「そうなのよねー。でも横島君はそれを伝える方法を見つけたの?」

「まあそういうことです。今回はエミさんも同時にやりましょう。そこに座ってください」

 そう言って『知覚』、『伝達』の双文珠をもう一つずつ作ると、二人の額に押し当てる。

「さあ、いきますよ?」

 二人の頭の中に未知のイメージが流れ込んできた……。






 美神とエミが文珠によって霊気とその流れを実感している頃、小竜姫は雪之丞と九能市の体内の霊気の流れを霊視し、時には竜気を持って手助けをしながら正しい方向へと修正していく。
 そうやって効率的にチャクラを廻し、霊力を増幅する術を教えていく。
 最初のイメージを掴んだ者には小竜姫も教えようがあるのだが、最初の部分だけは相手がイメージを掴んでくれないとどうしようもないため、これまで初心者に念法を教える事ができなかった。
 それを解決したのだから、ある意味横島は大した先生なのだろう。
 やがて横島の指導が終わった二人はフラフラしながら小竜姫達の方へ歩いてきた。

「お二人とも、どうでしたか?」

 悪戯そうな表情で尋ねる小竜姫。

「ようやく霊気というものをきちんと認識できるようになったし、霊気の流れをしっかりと自分なりに
 イメージできるようになったわ。あれが小竜姫様の言っていた事だったのね?」

「そうですよ。あれを言葉で伝えるのは難しいのです。念法が世に広まらなかった理由がわかった
 でしょう?」

「私もあそこまで明確なイメージを持っていたわけではないので、あれは勉強になったワケ!
 確かにあんな感じで私も霊力を練り上げてるワケ」

「あれさえ掴んでもらえれば、後は幾らでも指導の方法があるんですけどね。その点は横島さんの
 文珠を使うのが一番確実です。まあ美神さんの場合それが漸くわかった段階ですから、
 第1チャクラを安定して使う事ができるのに後2〜3週間はかかるでしょうね」

「ふっ…その間に私は第3チャクラをある程度使えるようにするワケ。おたくには負けないワケ!」

 勝ち誇った表情でそう告げるエミ。
 美神は悔しそうな表情をするが、このままでは負け犬の遠吠えなので我慢している。

「ねえ横島君。これから1ヶ月、私の事務所に住み込まない?」

 エミの言葉に耐えていた美神はいきなり爆弾発言をする。

「な、何を言っているんですか!? 美神さん!?」

 横島より早く大声を出す小竜姫。

「だって〜このままじゃエミに追いつけないんですもの……。といって私も仕事があるから妙神山に
 籠もるわけにもいかないし…」

「今だって横島さんは生徒を二人も持っているんですよ! そんな無責任なコトできるわけないじゃ
 ありませんか!!」

 絶対に許しません! という剣幕の小竜姫。

「まあまあ小竜姫様…。美神さん、それは無理っスよ。俺にも色々と都合がありますからね。それに
 この二人だってもう1ヶ月近くなるのに第1チャクラを自由に廻す事はできないんです。そうそう簡単
 にはいきませんよ。俺だって中学の3年間で漸く第5チャクラまで廻せるようになったんスからね」

 そう言われるとそれ以上は言えない美神。
 だが何となく諦めきれない。
 そんな美神を見てため息を吐く横島。
 そして小竜姫に目配せして一行から少し離れる。

「小竜姫様、ハーピーまでには美神さんのパワーアップ、間に合いませんね」

「そのようですね。でもこればっかりは……」

『一つだけ方法があるわよ』

「えっ!?どうやるんだルシオラ?」

『私の能力を増幅して、ヨコシマの文珠を使えば何とかできるわ』

「ルシオラさんの能力?」

『そう、霊波を直接相手の脳に撃ち込んで、擬似的に美神さんとヨコシマが一体になるの。その上で
 チャクラを廻す感覚と霊力を練り上げる感覚を美神さんの身体でやってみせれば大丈夫だと
 思うわ』

「つまり霊波を同調した上で、俺が美神さんの身体を制御するってわけか…。文珠は同調率や
 フィードバックをコントロールするために使うんだろう?」

『さすがねヨコシマ、その通りよ。でも結構危険だけどね…』

「そうですね。下手をすれば美神さんの意識が深層に埋没してしまいますよ」

「うん、危険すぎる。やはりここは普通の修行でいこう。ハーピーには俺が対処する」

 こうして3者会談は終わり、横島はハーピー事件までに美神をパワーアップさせる事を諦めたのだった。



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