GS美神 女子高生大作戦!

作:男闘虎之浪漫

レポート6.サイキック・パワー売ります!



 二階建ての木造アパートの一室で、横島は布団を()いて横になっていた。
 独身男性の部屋らしく、部屋の中は雑然としている。
 横島は熱があるのか、氷嚢(ひょうのう)(ひたい)にあてていた。

「うん、熱があるから今日は休むよ。令子ちゃん」

 鼻が詰まった声で、横島は電話に向かって話している。

「お見舞いに行きましょうか、お兄様」
「ゴホッ! ゲホッ!」

 横島は電話ごしに咳きこんだ。

「いや、風邪が移るといけないから、遠慮するよ。(寝ているときに、何をされるかわからないし……)
「じゃあ、今日は帰ってもいいですか?」
「あ、ごめん。一つ頼まれてくれないかな」
「いいですけど」
「注文していた道具が今日入荷されるはずだから、店まで受け取りにいってくれないかな。場所は……」




 令子とおキヌは、山手線のある駅で下車した。
 手書きの地図を片手にもち、自動車が多く走る国道沿いの道を歩いていく。

「呪的アイテム専門店、厄珍堂(やくちんどう)。この辺のはずだけど」
「あ、あそこじゃないですか。令子さん」

 おキヌの指差す方向を見ると、一軒の古い商家があった。
 『厄珍堂』という看板とのれんが出ている。

「こんにちはー」

 令子とおキヌが店の中に入ると、カウンターの向こうにパイプを片手にもち、サングラスをかけた背の低い中年男性がテレビを熱心に見ていた。
 テレビの画面には、昼下がりのメロドラマが放映されている。

『先生……、ブラを外してください』
『タ、タカミ君!』

 ブラウン管には上半身が下着姿の女子高生と、若い男性教師が映し出されていた。

「ええいっ! 何を言うてるか! 一気にいくよろし!」

 サングラスの男が、テレビに向かって大声を出す。

『この部屋には私たちしかいません。他の人には内緒にしますから』

 流し目で男性教師を誘う女子高生。その姿を見た男性教師は、思わず女子高生の肩に手をかけてしまう。

「よおーし、きたきた!」

 サングラスの男とともに、令子が画面を食い入るように見つめた。

『ダメだ! 私は教師なんだ。やっぱりそんなことはできない!』
『先生!』

 そこでエンディング・テーマが流れ、画面には《つづく》の文字が表示された。

「なめとんのか、ゴラァ!」
「シナリオ書いたヤツ、出てきなさいよ!」

 サングラスの男とともに、令子はテレビに足蹴(あしげ)りを加えた。

 ドガッ! グシャッ!

 テレビは一瞬の後に、スクラップと化してしまう。

 ハー ハー

 息を整えた男は、ようやく令子たちの姿に気がついた。

「いつのまに入ったか!? この厄珍に気配を悟らせないとは、タダ者ではないね!」
「あのー、それは少し違うと思うんですけど……」

 厄珍のボケか本気かわからない言葉に、おキヌがツッコミを入れた。






「なんだ。横島のとこの人であったか。あのボウズは来ないのか?」
「えーと、お兄様は風邪でダウンしちゃって、今日は仕事を休んでいるんです」
「ふーん」

 厄珍は令子の姿をじろじろと見た。

「横島に妹がいたなんて、聞いたことないね。さては嬢ちゃん、横島の隠し妻あるか?」

 隠し妻という言葉を聞いて、令子は急にテンションが高くなる。

「もー、おじさん。さすが目が高いわ! 横島さんの未来の妻、美神令子でーす♪」
「あの、令子さん。それは令子さんだけの予定ではないのでしょうか

 脇からおキヌが口をはさむが、令子のかん高い声にかき消されてしまった。

「横島も趣味がいいあるね。嬢ちゃん、今でもいい体しているけど、まだ胸とシリは成長する余地があるよ!」
「もー、やだ、オジサンったら!」

 厄珍のセリフに照れたのか、令子はドーンと手を突き出す。
 その手はものの見事に厄珍にヒットし、厄珍は壁際にまで突き飛ばされてしまった。

「アイタタタタ……」
「あら、やだ。ごめんなさい」




「はい、これ注文の吸引護符と霊体ボーガンの矢あるよ。全部で一億以上あるから、落とすよくない」

 厄珍は腰をさすりながら、令子にふろしきで包んだ商品を渡した。

「え、これ一億もするんですか」

 令子は手にしたふろしきを、しげしげと見つめた。

「ところで、嬢ちゃん。いいモノ欲しくないか?」

 厄珍がニヤリと笑う。

「ワタシ、魔道の世界に広く通じてるね。いろんなルートで超強力なアイテム入手する」
「で、いいモノってなんですか?」

 令子は興味深々とした様子で、厄珍の話を聞いている。

「普通これ数千万円以上するね。しかしワタシと嬢ちゃん気が合うし、お近づきに少し分けてあげてもいいよ」

 厄珍は店の奥の金庫から、小さな箱を取り出した。

「どんなバカにもサイキック・パワーが宿るという薬。裏ルートでもめったに手に入らない貴重品ね!」

 風邪薬に似たパッケージには、『カタストロフ−A』という名前が印刷されていた。
 製品名の下にやや小さな字で『薬事法違反品』と書かれているところなど、アヤしさ爆発である。

「これ使えば、一粒で300秒、嬢ちゃんでもエスパーになれるね」
「うさんくさいわね〜」

 令子が白い目つきで、薬のパッケージを見つめる。

「うーむ、仕方ないあるね。まあ、羊羹(ようかん)でも食べていくよろし」

 厄珍が店の奥から、羊羹(ようかん)とお茶を持ってきた。

「いただきま〜す」

 令子が羊羹(ようかん)を食べようとして大口を開けたところに、厄珍がヒュッっと薬のカプセルを投げ込んだ。

 ゴクン!

「や、ちょっと何したのよ! 飲み込んじゃったじゃない」
「だいじょぶ。そろそろ、薬が効きだすころね」

 令子の背筋がゾクリと震えると、体中に力が充満した。

「な、なにこれ! 変な感じがするわ!」

 令子の背中からオーラが噴出し、(うず)を巻いて舞いあがった。

「すごい……。こんなにパワーを感じたのは、生まれてはじめて……」

 令子が背後を振り返った時、はるか遠くにあるはずの事務所のイメージが、くっきりと脳裏に浮かび上がった。

「事務所が見えるわ……。あそこまで行けるかしら?」

 令子がその言葉を口にしたとたん、令子の姿がその場から消えてしまった。

「瞬間移動あるよ!」
「えっ、幽霊の私でも難しいのに!」
「たぶん、事務所に移動したあるね」
「令子さん!」

 おキヌは厄珍の店を飛び出すと、事務所に向かって飛んでいった。

「……問題は副作用あるな。あの嬢ちゃんが無事なら、ウチで売ることにするね」

 ひとり店に残った厄珍は、顔に不敵な笑みを浮かべていた。






 厄珍の店から瞬間移動した令子は、事務所のソファの上に姿を現した。

「すごいわ、これ! お兄様よりパワーがあるかも!」

 令子は次に何をしようか、考え始めた。

「うーん、何がいいかしら。そうだ! お兄様の部屋にテレポートしちゃおうっと♪」

 令子はこめかみに指を与えると、横島の部屋をイメージし始めた。

「うーん、うーん……。あれ!?」

 事務所に瞬間移動した時のように、横島の部屋のイメージが浮かんでこない。

「あっ、そうか。よくよく考えたら、私まだお兄様の部屋に行ったことがなかったっけ」

 行ったことのない場所をイメージするのは、やはり無理なようである。
 横島のアパートの住所を見てみたが、やはりイメージできなかった。

「仕方ないわね。こうなったら電車で移動して、お兄様の部屋に押しかけるしかないかな」

 なにやら物騒なことを考え始めたとき、今まで全身にみなぎっていた力が急速に抜け落ちた。

「薬が切れたみたい。5分しか持たないって本当だったのね」

 全身の力が抜けた令子は、ソファーの上に座り込んだ。

「まだ薬はいっぱい残っているわ。さっきの感触だと、瞬間移動以外にも念動力とか他の能力も使えそうだったし。ここは知恵を絞って考えないと……」

 令子は怪しげな笑みを浮かべながら、次の行動計画を練り始めた。




 バンッ!

 横島の部屋のドアが鍵をかけていたにも関わらず、強引にこじ開けられた。

「れ、令子ちゃん!」
「フッフッフ。お兄様、今日こそ年貢(ねんぐ)の納め時ですわ!」

 横島は慌てて上半身を起こすが、それ以上体を動かすことができない。

「い、いったいどうしたんだ!」
「私の眠っていた能力が、開放されたんです! お兄様、もうあきらめましょう」

 令子は着ていた服を脱ぎ捨て、下着だけの姿になった。
 そして横島の体にかけられていた掛布団を、念動力でガバリとはぎ取る。

「れ、令子ちゃん! 早まっちゃダメだ!」
「フッ。この服が邪魔ですね」

 令子が目を光らせると、横島が着ていた寝巻きが全て切り裂かれた。
 横島は一糸まとわぬ裸の姿になってしまう。

「遅かれ早かれ、私とお兄様はこうなる運命だったんです」

 令子は妖艶(ようえん)な笑みを浮かべると、横島の唇と自分の唇を重ね合わせた。

「ムグ! ムググググ……」




「令子さん、しっかりしてください!」
「へっ!?」

 ふと気がつくと、令子の目の前におキヌの姿があった。
 令子はおキヌに両方の肩を掴まれ、揺さぶられている。

「もうこっちの世界に戻ってこないんじゃないかと、心配しましたよ」

 令子はトローンとした目つきをしており、唇からはよだれが零れ落ちていた。

(いけない、いけない。つい妄想(もうそう)(ふけ)り過ぎてしまったわ)

 プル プルルルル

 令子が自分の頬をぴしゃりと叩いて気合を入れ直していた時、事務所の電話のベルが鳴った。

「はい、横島除霊事務所です」
「すみません、急なお願いなのですが……」
「えっ!? 五千万ですか!」






 事務所で電話を取ってから三十分後、令子はあるデパートの婦人服売り場に来ていた。

「あいつです! 理由はわからないのですが、今朝から売り場をぶった切っています」

 デパートの社員らしき男が、令子に状況を説明した。
 男が指差した先には、錆付いた日本刀を持ち、古びた(よろい)を身につけた骸骨(がいこつ)が、何やらブツブツと言いながら、デパートの中を歩き回っている。

「まかせてください! このゴーストスイーパー・美神令子が、ただちに片付けてみせます!」
「じゃ、頼みますよ」

 男は逃げるように、婦人服売り場から去っていった。

「いいんですか? 資格もないのに」
「しー。黙ってて、おキヌちゃん。ちょっとお小遣い稼いで、結婚資金の足しにするだけだから」
「……五千万って、すごい金額ではないんでしょうか」

 しかしボソボソと会話を交わす二人の姿が、骸骨(がいこつ)に気づかれてしまった。
 骸骨(がいこつ)は二人目掛け、刀を振りかざして突進してくる。

「キョエーッ!」
「きたわね!」

 令子は、さっそく薬のカプセルを口の中に放り込んだ。
 飲み込むや否や、全身に力が満ち溢れる。

「あんたなんか、こうよ!」

 令子は(ひたい)から、念動力を発した。

 ボヒュン!

 令子の念動力で骸骨(がいこつ)は、奇妙な音をたてて破裂してしまった。

「やったわ! これで五千万なんて、なんてボロい仕事なんでしょ!」

 ホホホホと笑いながら、令子はガッツポーズをとる。

「令子さん、笑っている場合では……。あれを見てください」
「は!?」

 おキヌが指差した先を見ると、破裂した骸骨(がいこつ)の破片が再び一箇所に集まり、復元し始めていた。

「ゲッ! ()いてないの!」
「やっぱりプロじゃないと無理なんですよ。私、横島さんを呼んできます!」

 おキヌはデパートの窓から、外に飛び出していった。

「まずいわ! お兄様に知られたら、怒られちゃう!」

 令子は、とりあえず逃げることにした。
 しかし逃げようとしたとき、骸骨(がいこつ)に足を(つか)まれてしまう。

「ちょっと、離しなさいよ!」

 だが骸骨(がいこつ)は、(にぎ)った足を離そうとしない。

「ええい、こうなったら最後の手段よ!」

 令子は念動力を発するため、(ひたい)に力を集中させた。

「これでも食らいなさい!」

 だがそのとき、(ひたい)の辺りでプチッと何かが切れるような音がした。

「えっ!?」

 ドッカーーーーン!

 その瞬間、デパートのフロアで大爆発が起きた。




「はーっ。本当に世話が焼けるよな」

 おキヌに呼ばれた横島は、急いで除霊現場に駆けつけた。

「厄珍のことを、あらかじめ言っておけばよかった。あいつは変わった品が手に入ると、お客で実験する悪いクセがあるんだ」
「あの、いちおう悪霊はやっつけたんですし、あんまり怒らないでくださいね」

 おキヌが、令子のために助け舟を出す。

「……この姿を見たら、怒る気も失せたよ」
「アーン! 見ないでくださーーい!」

 フロアの真ん中には、爆発で発生した(けむり)(すす)で真っ黒になってしまった令子の姿があった。
 長い髪の毛が、アフロヘアーのようにちぢれてしまっている。

「なんつーか、百年の恋も冷めるような姿だな」
「お兄様のバカーー!」

 令子の声がフロア中に響き渡った。




「次はこれなんか面白そうあるな。あの嬢ちゃんは、使えるよ!」

 同じ時刻、店の中で別のアイテムを手にしながら、ニヤニヤと笑っている厄珍の姿があった。


(レポート6.サイキック・パワー売ります! 完)


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