GS美神 女子高生大作戦!
作:男闘虎之浪漫
レポート8.極楽愚連隊、西へ![1]
その日は夕方から夜にかけて、大雨が降り続いていた。
「はい。今日は霊的によくない日なので、予定を変更したいと──はい、申し訳ありません」
おキヌは、仕事の延期を顧客に伝えると、受話器を下ろした。
「悪いね、おキヌちゃん。面倒な仕事を頼んじゃって」
「いえ、いいんです。私、幽霊ですから、こんなことでしかお役に立てなくて」
「でも、雨が降ったらお休みですか。大名商売ですね」
「違うんだよ、令子ちゃん」
机に座って何かの書類を書いていた横島が、顔を上げた。
「まあ、雨の日に一晩中墓地に立つのは嫌だなってのもあるけど、それ以外に何かこう、特別な
予感がするんだ」
「特別って、どんな感じですか?」
「首の後ろがチリチリとするんだよな。こういう日は、大きくてやっかいな事件が飛び込んでくる
ことが多いんだ。一応、それに備えているってわけ」
そのとき、事務所のドアのチャイムが鳴った。
「誰か来たみたいですね」
「噂をすれば、何とやらだな」
「はじめまして。私はアンといいます」
横島の事務所を訪問したのは、令子と同じくらいの歳の白人の少女であった。
美しい金髪をショートカットにした彼女は、ノースリーブのシャツと長いスカートをはいていた。
(この女は危険だわ!)
令子の危険度感知センサーが、敏感に反応する。
アンは頬(に少しそばかすを残しているものの、真っ白な肌はきめも細かく、さらに胸の隆起は令子のそれをはるかに上回っていた。
「どうも。私が横島です」
「実は唐巣先生の使いで来ました」
「唐巣先生の?」
「ええ。私は今、先生の弟子でもあるんです。先生からあなたへのメッセージを預かっています」
横島はアンが差し出した手紙を受け取って読んだ。
「えーっと、なになに。やっかいなことが起こったので、こちらに来て欲しいか。
これじゃあ、どこで何をするのか、全然わからないな」
「場所は地中海の小さな島です。ブラドー島といいます」
「地中海!」
(地中海ってことは、海にきれいなヨットがあったりして、そこで水着を着た私とお兄様が並んで
日光浴なんかをしたりしているのね! それでもって……)
地中海という言葉を聞いた令子は、なにやら電波を受信したらしく、妄想(の世界へと突入した。
ときおり、グフフという不気味な笑い声が、口の端から漏(れてくる。
「……えーと、令子ちゃんは置いておくとして、もう少し詳しい話を聞きたいな。
まあ、先生から持ち込まれた話だから、依頼料は期待できそうにないけど」
「すみません。私からはこれ以上お話しできないのです。
それから、依頼料の件については、ご心配なく」
アンは持っていたかばんから、金でできた鷹(の彫像(を取り出した。
「うわー。これ、純金ですか!?」
純金の彫像(を目にした令子は、すぐさま妄想(の世界から現実へと戻った。
「歴史的にも貴重な品物です。まず二十億は下らないでしょう」
「お兄様! この仕事、引き受けましょう!」
「先生の頼みでもありますし、この件は引き受けます」
「ありがとうございます。私は、他のGSにも当たらなければならないので」
アンはレインコート代わりの黒いマントを羽織ると、事務所を出ようとした。
「俺と先生の二人でも、足りない仕事なのか!?」
「はい。私たちの敵は、とても手強(い相手です。横島さんも十分に気をつけてください」
数日後、手続きを終えた横島と令子、そしておキヌは、ローマ行きの飛行機に乗り込んだ。
もちろん、幽霊のおキヌはチケット不要である。その代わり、席がないので、横島と令子の頭上で宙に浮いていた。
「わあー! イタリアに行くなんて、久しぶりです」
「令子ちゃん、前にもイタリアに行ったことがあるんだ?」
「子供の頃、お母さんと一緒に、ヨーロッパのあちこちに滞在していたんです。
もちろん、イタリアも行ったことがあります。あまり細かいことは、覚えてないですけど」
「そっか……」
令子が中学生のときに母親を亡くしたことは、横島は既に知っている。
これ以上、この話題に触れない方が良いと判断した横島は、そこで話題を変えた。
「それにしても、唐巣先生が大勢人手を欲しがるほどの相手って、いったい何なんだろうな?」
「あのオジサン、そんなにすごい人なんですか?」
「一見さえない人に見えるけど、実はこの世界では、トップ10に入るほどの腕前なんだよ」
「へえー、そうなんですかー」
「元々は本職の神父だったんだ。ただ先生の所属する教会では、悪魔祓いを認めていなかった
から、破門されてGSになったんだけどね。
ところで、令子ちゃんって唐巣神父と面識あったっけ?」
「えっと……いろいろとあったんです」
ちなみに令子が唐巣と会ったのは、『時空消滅内服液』を飲んで逆行中のことである。(レポート5を参照)
「横島さん!」
ローマ空港についた横島たちを、アンが出迎えた。
「他のGSは集まった?」
「あと一人で全員揃(います。お疲れでしょうが、チャーター機を用意していますので、そちらへ」
横島たちはアンに案内されて、10人乗りくらいの小さなプロペラ機に乗り込んだ。
「これで島まで行くのか?」
「いえ、途中で船に乗り換えます。なにせ、何もない島ですので」
「ま、いいけど」
横島は飛行機に乗り込んだが、中に入った途端、目つきの悪い男と視線がかち合った。
「誰かと思えば、雪之丞じゃないか!」
「て、てめーは横島!」
「生きてたのか!?」
「当たり前だ。あれくらいでくたばってたまるか!」
横島と雪之丞が、狭い飛行機の客室の中で、バチバチと視線を激突させる。
「なんじゃい、騒々(しい!」
ジャーッと水の流れる音が聞こえると、立派な体格をした老人が、カチャカチャとベルトを締めながら、トイレから出てきた。
「ド、ドクターカオス! あんたまでもか!」
「どうか・なさいましたか・ドクター・カオス?」
床に置かれた箱の中から、マリアがむくりと起き上がった。
「いーから、おまえは寝とれ。電池がもったいない」
「あーっ! 横島クンじゃない〜〜〜〜」
そのとき、のほほんとした感じの小柄な女性が、飛行機に乗り込んできた。
「め、冥子ちゃん!」
「冥子、嬉(し〜〜い! また一緒に、お仕事できるのね!」
「冥子さん、離れてください!」
横島に抱きついた冥子を、令子が後ろから引き剥(がした。
「これで全員揃(いましたね。それでは、出発しましょう」
一行を乗せた飛行機が、ローマ空港から離陸した。
(こ、この面子(で、本当に大丈夫かよ……)
やや振動のする座席に座りながら、横島は大きな不安を感じていた。
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