GS美神 女子高生大作戦!

作:男闘虎之浪漫

レポート8.極楽愚連隊、西へ![2]




 横島の(かん)が当たった。
 飛行機が離陸してまもなく、大量の蝙蝠(こうもり)(おそ)われたのである。

蝙蝠(こうもり)でくるとは……昼間だと思って、油断してました」

 アンが窓の外を(なが)めていると、その目の前を脱出したパイロットが横切っていった。
 パイロットは飛行機から離れたところで、パラシュートを開いて降下した。

「チッ! パイロットが逃げちまうとはな」

「あ、あの。皆さん、落ちついてくださいね」

「落ちついてる状況じゃないでしょうがーー!」

 アンの言葉に、令子がキレてしまう。

「諸君、ここは私に(まか)せたまえ」

 カオスが、ずいっと前に出た。

「助かる方法があるのか、カオス?」

 横島が、カオスに(たず)ねる。

「こんなこともあろうかと、魔法科学の(すい)を集めた高性能アンドロイドのマリアに、
 ジェットエンジンを組み込んでおいたのだ!」

 マリアが軽くかかとを上げると、靴底に小さな噴射孔(ふんしゃこう)がセットされていた。

「行け、マリア! 天才の頭脳が、燃えないゴミから作りあげた新兵器の威力を見せるのだ!」

「イエス、ドクター・カオス!」

 マリアが、カオスの両肩をがっちりと(つか)んだ。
 そして、そのままジェットエンジンの噴射を開始する。

「えっ!?」

 カオスが躊躇(ちゅうちょ)する間に、マリアは発進した。
 ……飛行機の天井をぶち破って。

 ゴーーッ

 豪快なジェット音と共に、マリアとカオスは飛行機から離れ、そして空中で盛大に爆発した。

「だーーっ! 一瞬でもカオスに期待した俺がバカだった!」

 横島が大声で(くや)しがる。

「皆さん、何かに(つか)まってください! 不時着します!」

 ギューーン! ドゴーーーン!

 横島たちの乗った飛行機が、派手な水飛沫(みずしぶき)をあげて海面へと突っ込んだ。




 その頃、現場付近の海域を航行する一隻のヨットがあった。
 そのヨットの甲板の上でオーナーの男性が、ロッキングチェアに座りながらアルコールを口にしていた。

「あー死ぬかと思った」

 そこに、ずぶ()れになった女子高生が、突然海からヨットによじ登ってきた。

「近くに船がいて、助かったよ」

 次に、バンダナを着けた青年が、甲板に上がる。

「お洋服がびしょびしょだわ〜〜」

 続いて黒髪の少女、目つきの悪い三白眼の男、最後に金髪の少女が甲板に上がってきた。
 幽霊のおキヌも、いつのまにかヨットの甲板の上に浮かんでいる。
 突然の事態に、ヨットのオーナーは目を白黒させていた。

「さてと。俺たちに言うべきことがあるんじゃないのか」

 横島がアンの顔に視線を向けた。

「どう見ても、あの蝙蝠(こうもり)の群れは、ただ移動していただけとは思えない。
 誰かに操られていたんじゃないのか?
 敵が誰なのか、そろそろ教えてもらわないとな」

 アンが、緊張した表情を見せた。

「ヤツの名は、ブラドー伯爵です。最も古く、そして最も強力な吸血鬼の一人です」

「「「「吸血鬼!?」」」」

 横島、雪之丞、令子、おキヌの視線が、一斉にアンに集まった。
 一人、冥子だけが、ほえほえとした表情で、皆の様子を見ている。

「中世ヨーロッパでは、何度かペストが流行り、人口が激減したことがありました。
 しかし、少なくともそのうち二回は、病気ではなくヤツが原因だったんです」

「ドラキュラより、ひどいですねー」

 令子が口をはさんだ。

「ドラキュラは、ブラドーのいとこの奥さんの兄にあたります。
 やがて、人間の逆襲を受けたブラドーは領地に逃げ戻り、力が(よみが)るまで魔力で島を隠し、
 今まで眠っていたのです」

(よみが)った吸血鬼最強の男か。確かにやっかいな相手だな」

「唐巣先生はヤツが島から出ないように、結界を張りました。
 しかし、使い魔が(おそ)ってきたということは……」

「先生の身に何かあったのかもしれません。急がないと!」

「このまま、ブラドー島に向かうしかないな。
 冥子ちゃん、このヨットのオーナーに頼んでくれないかな」

「え〜〜私〜〜?」

「冥子ちゃん。お願い、頼むよ」

 横島に説得された冥子は、ロッキングチェアから落ちて、腰を抜かしているヨットのオーナーに近づく。

「というわけで〜〜このヨットをお借りしたいんですけど〜〜」

「な、な、何で私が!」

「そんな〜〜ダメなんですか〜〜」

 冥子の目に、じわりと涙が()まった。
 その瞬間、冥子の影から十二の式神が飛び出す。

「ひっ、ひえええっ!」

 式神たちに(おび)えたヨットのオーナーは、首をブンブンと縦に振った。

(はか)りましたね、お兄様」

「な、何のことかな、令子ちゃん」

 令子に突っ込まれた横島は、首筋にわずかな冷や汗をかいた。




 その日の夕方、横島たちの乗ったヨットがブラドー島に着いた。
 島の南側は切り立った(がけ)となっており、その上に崩れかかった城があった。
 一方、島の北東に海に面した小さな村があり、一行はそこへ向かった。

「ここがブラドー島か」

「あの古城がブラドーの住処(すみか)です。先生は(ふもと)の村にいるはずですが……」

 村はずれの丘の上から、横島とアンが(がけ)の上の古城を見上げる。

「ちっ、何だこの邪悪な波動は! これじゃあ、吸血鬼が隣にいても、わからないじゃないか!」

 一緒にいた雪之丞が、島の異様な様子にいらだちの声をあげた。

「誰か、来ます!」

 横島たちと反対の方角から、誰かが丘に上ってきた。

「遅かったな」

 ひょいと姿を現したのは、カオスとマリアだった。

「い、生きてたのか!」

「なんじゃい、ものすごく不満そうじゃな。
 ところで、マリアのジャイロによれば、ここはブラドー島のはずじゃが、おまえさんの師匠は
 どこにおる? 村をみつけたが、人っ子ひとりおらんぞ」

「なんですって! 村人が一人も!?」

 アンが、驚きの声をあげた。

「食いもんだけは、こんなにあったぞ。ほれ」

 カオスが、食料をいっぱいに詰めた手提げ袋を見せた。

「それじゃあ、空き巣と同じじゃない」

 令子が(あき)れた顔をしていた。




「先生ーーっ! 誰かいませんかーーっ」

 アンが村の大通りを、大声で呼びながら走っていく。
 しかし、誰一人として返事をかえさなかった。
 やがてアンは、通りの真ん中に、壊れたメタルフレームのめがねが、落ちているのをみつけた。

「これは……」

 アンの後から、横島、令子、おキヌ、冥子、雪之丞、カオス、マリアが村の中に入った。

「何かヘンだな、この村」

「誰もいないんだから、当たり前だろう」

 横島の言葉に雪之丞が、ややぶっきらぼうな口調で答える。

「お兄さまの言ってること、私わかります」

「え〜〜。何がヘンなの〜〜」

「教会が無いんです。ヨーロッパの町や村には、たいてい教会があるんですが」

 令子の言葉を聞いた一同が、あらためて周囲の建物を見回した。

「吸血鬼に、壊されたんじゃないのか?」

「でも〜〜それらしい(あと)もないわよ〜〜」

「ひょっとして、この村は……」

 横島が両腕を組んで、じっと考え込んだ。
 そこに、先に村に入ったアンが近づいてくる。

「一足、遅かったようです」

 アンが、拾ったメガネを横島に渡した。

「これは、唐巣先生のメガネ!?」

「まだやられたと決まったわけではありませんが、私たちだけで戦うことを覚悟した方が
 よさそうですね」

「たぶん、今夜にも攻めてくるだろうな」

 日も暮れかかっていたため、横島たちは防御に適した民家を探すと、その家の中に入った。



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